生物学は関係ない。

      2016/03/18

 いささか古い話題を掘り返すことにする。
 いつだったか、とある政治家が、「同性愛は生物学的に間違っている」と発言して炎上したことがあった。
 この炎上には、大きく2つの流れがあった。
 ひとつは、「異常者」とレッテルを貼り同性愛者の尊厳を踏みにじったその非人道性を批難する流れ、もうひとつは、「生物は性別がフィックスされた個体同士による異性婚がスタンダード」という生物学的知識の誤りを批判する流れである。
 私のTwitterタイムラインは生き物屋、生き物好きが過半を占めるので、どちらかというと後者に関わるツイートが多かった。生き物屋たちは、老害が自らの旧弊な価値観を補強するために「生物学」を誤用して共犯に陥れようとすることに大変憤っていた。
 他人事のように言うのはよそう。私もその1人だった。
 生き物屋たちは、「生物学的に、哺乳類として正しいあり方」は同性婚を否定するものではないのだ、ということを挙証するために、様々な生物の多様な生殖のあり方をツイートし続けた。一連のツイートは、togetterにまとめられている。

#生物の多様な生殖 まとめ - Togetterまとめ

 これらのツイートを、私は大変興味深く拝読した。知的好奇心を刺激するものであることは間違いなかったし、生物学を悪用しようとする老害を見事に粉砕する内容にもなっている。
 だから、まだ読んでいない人がいればぜひ読んでみて欲しいと思うのだが、勘違いしてほしくないことがひとつある。
 「生物学は同性婚を否定しない」ことを挙証した生き物屋たちは、だからといって、「生物学的に正しいから、同性婚は擁護されるべきなのだ」と言っているわけではない、ということである。
 生き物屋たちは、同性婚を擁護する根拠として、生物学を持ちだしたわけではない。それでは、同性婚を批難する根拠として生物学を持ちだした件の政治家と、同じ穴のムジナになってしまう。彼らはあくまで、「価値観の補強に学問を誤用するのは間違いだ」と言っただけだ。
 同性婚の可否と、生物界に同性愛がありふれているかどうかとの間には、特になんの関係もない。
 そこを、間違えないようにしていただきたい。
 セクシャルマイノリティについて考えるとき、「生物学的に正しいかどうか」は、率直に言ってどうでもいいことである。たとえ生物学的に間違っていることであったとしても、現に目の前にそのような人がいて、困難に直面しているなら手を差し伸べる。それが人間というもののあり方である。遺伝子のエラーによる先天性障害を持った人は、生物としては誤りかもしれないが、私たちの社会は、そういう人たちをちゃんと幸せに生かそうとする仕様になっている。そういう個体でも見捨てずにちゃんと生かすことによって、人類は現在の繁栄を手にしたのだ。生物学的に正しいかどうかと、人間としてどう遇されるべきかは、まったく別の問題である。「生物学的に間違っていても、人間としては間違っていない」ということはいくらもあるし、「生物学的に正しくても、人間としては間違っている」ということだっていくらもある。さかなクンが朝日新聞の連載に書いたように、ストレスのかかる条件下で「いじめ」が発生するのは生物界ではありふれたことだが、だからといって教室で起こるいじめが正しいことだということにはならない。
 確かに、ヒトが生物学的にどのような生き物であるかというのは、私たちがどのような存在であるのかを教えてくれる重要な情報ではある。でも、「私たちはどうあるべきか」と考えるとき、それに縛られすぎてはいけない。人間のあるべき姿は、「生物としてのヒト」の姿とは独立に、私たちが自由に決めていいものだ。「生物学的正しさ」の中に理不尽が存在するのなら、それを踏み潰してあらたな倫理を打ち立てればいい。「生物学的正しさ」の枠の中で生きるなら、バクテリアであっても構わないのだから。人間に生まれたからには、自然界に同性愛がまったく存在せず、あるいは存在したとしても同種から激しく攻撃されるものなのだったとしても、「人間だけは、同性愛者を尊重する」と言い切るくらいの気概が欲しい。
 あるいはこのような言い方は「人間の傲慢」ととられるのかもしれない。が、そうでなければ、人間に生まれた甲斐がない、と私は思う。ツイートをした生き物屋たちも、もし生物学的に同性愛が否定されたら、掌を返す人たち、であるわけではない。
 くれぐれも、誤解のなきよう。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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