「受動意識仮説」とは。
慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授が「意識」の仕組みについて解説した動画が公開されています。
意識は能動的なものだと、私たちは考えがちです。歩くときには、まず「歩く」と意識する。手を振るときには、まず「手を振る」と意識する。意識が指示を出し、しかるのちに体が動く。意識は「私」の統御者である。それが、ナイーブな「意識」の捉え方ではないでしょうか。
しかし、前野教授は、そうではない、と主張します。
前野教授によれば、人間の意識が何かを決断する(歩き出そう、とか、手を振ろう、とか)よりも少なくとも0.35秒前に、早い場合には8秒も前から、脳は、歩き出すための、手を振るための準備を始めているのだそう。これが意味するのは、意識に先んじて、私たちの脳はすでに決断を下している、ということです。私たちの活動を統御しているのは実は無意識の方で、意識は無意識のはたらきをモニターして記録しているだけの脇役的存在に過ぎないのだというわけです。
もちろん、だからといって「意識」に意味がないわけではありません。意識が無意識の活動を「エピソード記憶」として記録しておいてくれるおかげで、私たちはその記録を参照し、より高度な判断を下せるのですから。ただし、意識がすべてを統御する統御者であるわけではないようなのです。
脳のはたらきなんてまだわからないことの方が多いくらいですから、この「受動意識仮説」がどこまで該当するのかはわかりません。けれども、おもしろいなぁ、と私は思います。確かに、脳からの司令が指先に届くまでのタイムラグを考えたら、「指を曲げようと思った瞬間に指が曲がっている」というのはつじつまが合わないですもんね。実は先に無意識の方が司令を出していて、それが指に届く頃に、意識がそれを知覚する、という流れの方が、自然なように思われます。
考え始めると頭がこんがらがってきますけれど、興味深い動画です。
お暇な方はぜひ。