彼氏の趣味に「ついていけない」と思ったら読む本。

      2016/05/08

 大崎善生さんの小説、『ディスカスの飼い方』を読みました。

 素晴らしい本です。
 ディスカスのブリーディングにのめり込む男の心理を、的確に描写しています。
 主人公の涼一は、ただ、ディスカスが好きだから飼っているのではありません。ディスカスのブリーディングを通じて、世界の成り立ちを理解したいという、欲望を持っています。
 その欲望を叶えんがために、恋人を捨て、会社を早期退職までして、ディスカス飼育にのめり込んでいる。
 馬鹿みたいな欲望ですけれど、本人は真剣です。
 やっと孵ったディスカスの稚魚が、餌不足のトラブルから死滅しようとしたとき、吐き気やめまいを催すほどに。
 それは、稚魚を失う悲しみからではありませんでした。自らが構築してきた、「世界を理解するための方程式」が誤っていたことを、稚魚の死が意味しているからでした。
 涼一のように、はたから見れば趣味にしか見えないようなことを、生きるための「足場」としてしまう男は、おそらく少なくないと私は思います。
 車、バイク、ゴルフ、フィッシング、登山、そして、動物飼育。
 趣味誌と呼ばれるものが、書店に溢れるほど存在し、そのほとんどが男性向けに作られていることは、男性が女性に比べて、こういったものに「寄りかかりやすい」ことの証左でしょう。ためしにその1冊を手にとって、適当なページを開いてみてください。趣味を人生に重ねるような言説が、いかに多いかがわかるはずです。
 女性には理解できないのかもしれませんが、男とは、「そういう生き物」なのです。
 だからときに、というかしばしば、男は恋人よりも、趣味を選ぶことがあります。せっかくの連休に恋人をおいて、ディスカスの専門店を訪ねるために熊本まで行ってしまう涼一のように。
 しかし、勘違いしないで欲しいのは、だからと言ってそういう男たちが、恋人のことを不要と思っているわけでも、愛していないわけでもない、ということです。
 稚魚がピンチに陥り、混乱する涼一を救ったのは、頭の中に響いたかつての恋人、由真の声でした。
 涼一は、崩壊寸前な自我を助けるために無意識が放ったメッセージを、ディスカスの犠牲にしたはずの恋人の声として聞いたのです。
 彼はほんとうは、深く、深く、彼女のことを愛していたから。
 彼女を失ったことを、心の底から悔いているから。
 ディスカスにのめり込みないがしろにしながらも、涼一は確かに、由真のことを必要としていたのです。
 他の男性も、基本的には同じ、はず。
 趣味にのめり込む男性にとって趣味とは人生であり、それゆえ、家族や恋人とそれらとは、秤にかけて比べるようなものではなく、どれほど趣味にのめり込もうとも、家族や恋人は、それとは別次元で大切であるはずなのです。
 だから、たとえ「ついていけない」と思ってしまったとしても、一度好きになった男性ならば、こらえて側にいてあげてほしいと、私は思います。
 趣味に没頭する恋人に戸惑っている女性諸氏に、私はこの本を、薦めたいと思います。
 理解できないかもしれません。でも、少しだけ、気持ちが楽になるはずです。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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