爬虫類カフェの作り方。――横浜亜熱帯茶館店長、長野睦さん

      2016/03/18

 横浜は伊勢佐木町に、横浜亜熱帯茶館という喫茶店があります。
 爬虫類を見ながらお茶が飲める、猫カフェならぬ"爬虫類カフェ"。メディアに度々取り上げられていますから、ご存知の方も多いでしょう。
 横浜に爬虫類カフェができるらしいよ、という情報を得てから、私はこのお店に関心を持ち続けておりました。というのも、「爬虫類カフェ」は、動物と関わる仕事の、新しい形になるのではないかと思ったからです。
 爬虫類を仕事にしたいと思っても、道はあんまり多くはありません。
 獣医になって診療に携わる道。学位を取って研究者になる道。爬虫類展示施設を持った動物園に潜り込む道。いずれもなかなかに狭き門です。ライターやカメラマン、イラストレーターなどではなく、爬虫類"そのもの"を仕事にしたいと思ったら、多くの場合、「爬虫類販売店で働く」または「爬虫類販売店を開く」ことを選択せざるを得ません。
 横浜亜熱帯茶館のオープンと、その盛況は、このような現実に、新しい光を灯したように、私には思えました。
 爬虫類やりたいから、カフェを開く、というのもアリなんじゃないの、と。
 そこで、今回私は、この横浜亜熱帯茶館のオーナー、長野睦さんに、インタビューを敢行して参りました。もし、長野さんに倣って誰かが爬虫類カフェを開こうとしたら、一体どんなことに気をつければいいのかを伺うために。
 

必要なのは、人脈?

 横浜亜熱帯茶館の入り口を入ると、いきなり大きなガラス温室が目に飛び込んできます。中にいるのは南米に生息する大きなトカゲの仲間、アルゼンチンレッドテグー。向かって左には同様の温室を区切った中に、同じく南米産のガイアナカイマントカゲやブラジルレインボーボアの姿があります。窓際に目を向けると目に入るのは、放し飼いにされたオーストラリア産のフトアゴヒゲトカゲが日光浴をしている姿です。触れ合いコーナーとして区切られた一角では大きなケヅメリクガメやヒョウモンリクガメが眠りこけ、壁際に並べられた水槽には、サビトマトガエルやヒョウモントカゲモドキなどなどが潜んでいました。

ガイアナカイマントカゲ

ガイアナカイマントカゲ

フトアゴヒゲトカゲ

フトアゴヒゲトカゲ

 メディアの情報によれば、その数は全部で16種、40匹にのぼるのだそう。
 なかなかの大所帯です。
 しかし、爬虫類カフェ、と看板を掲げるなら、やはりこれくらいの動物が揃っていなければ味気ないかもしれません。
 そう、カフェをやる上でまず必要になるのは、「動物集め」ですね。
 だから、私がまず気になったのは、これだけの動物を、どうやって集めたのだろう、ということでした。もともと、これだけのものを自宅に置く気合いの入った方だったのか、開店のために入手したのか。
 実際に訊いてみると、もともと飼っていたのはリクガメなど一部のものだけなのだそう。他の動物は、開店にあたって入手したそうです。なんでも、「こんど爬虫類カフェを開くから」と伝えて、各方面から譲り受けてきたのだとか。
 横浜亜熱帯茶館で飼われているような大きく成長した動物たちを、いきなり揃えるのはけっこう手間がかかります。爬虫類も繁殖個体の流通が多くなり、出回るのは小さな幼体であることが多いからです。一方で、幼体を、展示して見応えのあるサイズまで育てるには時間がかかります。どうやら、爬虫類カフェを開くに当たって大事になるのはまず、個体を手配してくれる「人脈」であるようです。
 

保健所に言われた4つのルール

 続いて気になるのは、カフェの営業をしながらそえだけの動物の世話をするのは大変ではないか、ということ。ヘビなどはさほどでもないですが、テグーのような大型のトカゲやリクガメは、かなり汚す印象があります。掃除だけでもずいぶん時間がかかりそうだと思いました。
 しかし、「この日はここ、この日はあっち」とローテーションを組み、大掛かりなメンテナンスは定休日に行うようにすれば、それほど大変ではないそうです。「犬猫のように毎日世話が必要なわけではないですから」と長野さんはおっしゃいました。飼育の手間は、工夫次第。
 しかしそれでも、飲食店に動物を置くために衛生管理には気を配らざるをないようで、毎日新聞の記事のよれば、開店前に毎日2時間近くも準備に費やすのだということです。私の経験では、イグアナのかじったバナナを食べても特にお腹を壊すことはなかったですが(よい子は真似しない)、動物相手に「絶対」はあり得ないですからね。
 ちなみに衛生管理についていうと、保健所からは、認可にあたって次の4つのルールを言い渡されたそうです。

  1. 手洗いを励行すること
  2. 野菜サラダなど、生ものを提供しないこと
  3. サンドウィッチなど、素手で食べる物を提供しないこと
  4. 昆虫・鳥類は展示しないこと

 過去にミドリガメ経由で食中毒が多発したこともあるように、爬虫類とサルモネラ菌は切っても切り離せない間柄。私の母校の公衆衛生学研究室でも、サルモネラを調べるためにヘビを採ってきてたりしてました。そんなわけで行政としては、サルモネラ食中毒発生の可能性は最大限、排除しておきたいという考えになるようです。横浜亜熱帯茶館のレギュラーメニューは中国茶とケーキに限られ軽食類がないですが、一人で切り盛りすることに加え、こういった点もメニューに影響しているのでしょう。飲食店の許認可の基準は自治体に委ねられていますから、もし同じような試みをする場合は、予め自治体に確認した上で、メニューを考える必要がありそうです。
 なお、最後の鳥NGというのはサルモネラではなく、鳥インフルエンザの蔓延を防ぐためというのが理由だそう。これは、近くに野毛山動物園がある、という特殊事情によるものだそうで、三鷹に猛禽カフェがあり、習志野の爬虫類カフェにはフクロウがいることを鑑みれば、場所によっては「行ける」ことは考えられます。養鶏場があったら多分アウトですが……。
 その他、基本的な届出事項については、猫カフェに準ずる、ということ。参考までに、こちらのリンクを貼っておきます。

 猫カフェをオープンさせるには、どのような資格や許可の取得が必要でしょうか? ま... - Yahoo!知恵袋
 

知識をつけよう、師を見つけよう

 さて、お話を伺う中で、爬虫類カフェ経営にあたっていまひとつ必要だと感じたものは、爬虫類全体に関する知識です。
 私がお邪魔している間に来店された方々もそうでしたが、横浜亜熱帯茶館の来店者は、女性がほとんどだと伺いました。爬虫類飼育には光熱費が尋常じゃなくかかりますし、餌にネズミや昆虫をあげなくてはいけませんから、飼いたいと思っても、断念される女性の方が多い。そういった方が、束の間の触れ合いを求めてやってくるのだということです。
 また、逆にこれから飼ってみたいと思うけれど、どうやって飼えばいいのかわからない、という方が、飼育相談に来られることも多いそう。それに答えなければいけないとすれば、お店で扱っている種類に限らず、幅広い知識が必要になってきます。
 そうでなくても、一度にたくさんの種類の動物を扱う以上、広範な知識は不可欠。専門家として常に勉強する姿勢が、求められるでしょう。
 長野さんも、ハイアマチュアな飼育者の方を師と仰ぎ(?)、管理について意見のもらったりしているそうです。
 情報は氾濫していても、キュレーションをする人材が不足気味な爬虫類の世界においては、信頼できる師匠を見つけることが、成功につながるのかもしれません。

全国にあったらいいのに

 と、このような形で、爬虫類カフェ開店に関するあれこれを、伺って参りました。
 横浜亜熱帯茶館開店に触発された方がいらっしゃったら、参考にして頂ければ幸いです。
 今日は中国茶初級インストラクターでもある長野さんの淹れた中国茶を飲みながら、取材後もお店の一角で過ごさせて頂きましたが、フトアゴヒゲトカゲが窓際の流木でせわしなくボビング(トカゲの挨拶みたいなもの)しているのを眺めながら過ごすひとときは、これは爬虫類好きにはたまらないものでした。もっと近くにこういうお店があったら、確実にノマドするのに、と思った次第。
 ですから私の希望は、互いに競合しないくらいの間隔で、一県に一軒くらいの感じで、爬虫類カフェが出現することです。
 どうか興味を持った若い人、しっかりした責任感のもとで、トライしてみてくださいな。

 横浜亜熱帯茶館Webサイト

 

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

 - 爬虫類で生きる