猫を複数飼育するときに考慮したいこと。

      2016/04/09

 猫は、犬に比べると手のかからない動物である。散歩も必要ないし、トイレを覚えさせるために特別なトレーニングをする必要もない。洗わなくても臭くならない。新鮮な餌と水を与えて、こまめにトイレの掃除をしていれば、とりあえずは飼えてしまう。
 飼育にかかる費用も、犬に比べれば安上がりだ。平均寿命は犬より長いにも関わらず、生涯にかかる費用は40万円ほど安いと試算されている。
 そのためか、猫は、犬に比べて、複数飼育されやすい傾向がある。犬を10匹飼っている、という人に出会うことはほとんどないが、猫を10匹飼っている、という人に出会うのは、(少なくともこんな仕事をしていれば)それほど珍しいことではない。私自身、猫なんて1匹も2匹も変わらないだろ、という感覚で、今の猫たちを飼い始めている。だから、ひょっとしたら、このブログをお読みになっている方の中にも、猫の複数飼育を計画されている方がいらっしゃるかもしれない。こんなに手がかからないなら、もう1匹くらいいてもいいかな、と考えて。
 そんな方に私がお伝えしたいのは、複数飼育を始めると、単独飼育の時には起こり得なかった問題にぶつかることがある、ということである。実際には、「猫なんて1匹も2匹も変わらない」ということはない、ということである。
 兄弟同士だったりして相性がよく、同時に導入したので猫同士も「そんなものだ」と思っており、それぞれのパーソナルスペースが十分に確保されている場合でもなお、複数飼育は、飼育者に困難を突きつけることがある。
 たとえば、台所の床に、何ヶ所も嘔吐した痕があるのを発見したとする。あなたはすぐに、嘔吐したのがどの猫が、特定することができるだろうか。トイレに残されている下痢便や血尿がどの猫のものか、それを見ただけで特定できるだろうか。あからさまに体調が悪そうにしている個体がいればいいが、猫はわりに体調不良を隠そうとするきらいがある。現場を押さえられない場合、体調の悪い個体がいることは確かだが、それが誰だかわからない、ということが起こりうるのだ。1日じゅう家にいられて、猫たちの様子を観察できるならいいけれど、仕事で見ていられない場合には、なかなか特定ができず、症状が進んで猫がグロッキーになってからようやくわかる、ということだってなくはない。
 それでもなんとか猫を特定して、病院で治療を受けたとする。そこで獣医師は言う。「しばらくは、病院でお出しする療法食だけを食べさせてください」。病気の治療というのは、注射を1発打ってはいおしまい、というものばかりではない。というかそれ以外の場合の方が圧倒的に多い。そして、特別な食事療法が必要な場合も少なくない。複数飼育をしているあなたは、きちんと食事療法を継続することができるだろうか。療法食は、得てして一般食よりまずい。そうでなくとも、猫は食事に関して保守的な動物である。与えられた療法食を、なかなか食べてくれない、ということも多い。そういう場合、餌を混ぜながら少しずつ切り替えていったり、スパルタ式に、腹が減ってもその餌しか出てこない、ということを猫に思い知らせて諦めさせたりするわけだが、複数飼育されている猫はまあたいてい、同居猫の食べている「おいしいごはん」を横取りすることで空腹を満たそうとする。これでは餌の切り替えが進まない。療法食に餌付いた猫でも、自分の餌を食べた後で、同居猫が「おいしいごはん」を残しているのを発見したらそれを食べ、食事療法を無意味にしてしまうことがある。隣で同居猫が「おいしいごはん」を食べている環境では、食事療法は失敗しやすいのだ。では、すべての猫に療法食を与えてしまえばいいのかといえばそうもいかないケースもある。療法食の中には、健康な猫には与えないほうがいいものや、他の病気を患っている猫には与えないほうがいいものがあるからだ。たとえばストラバイト尿石症用の療法食は、腎臓に負担をかけるので高齢猫や腎不全の猫には与えられない。腎不全用の療法食は蛋白を制限しているので成長期の猫には与えられない。そのため、場合によっては、食事療法を徹底するために病気の猫だけ隔離飼育する必要に迫られることだってありうる。そんなスペースを、あなたは確保できるだろうか。
 猫が健康でいる限り、複数飼育は、単独飼育の延長線上にある。けれども、複数飼育は、猫の健康管理を格段に難しくする。
 2匹目を考えている方は、そのことを理解しておいて欲しいと私は思う。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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