最大の獣脚類スピノサウルス!!――恐竜博2016に行ってきた。

      2016/04/10

 上野の国立科学博物館で開催されている恐竜博2016に行ってきた。

 恐竜博2016

 スピノサウルスの復元骨格標本を筆頭に、近年の研究で明らかになった知られざる恐竜の姿を紹介する展覧会である。
 昨年、2015年には、なんと1年間で35種もの新種の恐竜が報告された。本展覧会では、それらの発見によって判明した新事実が、「起源」、「植物食」、「飛翔」、「水中進出」、「赤ちゃん」、「恒温」、「鳴き声」という7つのキーワードのもとに解説されている。
 会場に入りまず目に入るのは、一見恐竜に見えるけれど、恐竜ではない爬虫類の姿だ。タンザニアの三畳紀中期の地層から発見されたアシリサウルス(Asilisaurus kongwe)である。恐竜にもっとも近縁な爬虫類であるシレサウルス類に分類されるこの生物は、恐竜と同じように直立歩行(恐竜や哺乳類のように、足が体の下にまっすぐ伸ばして歩く歩き方)をしていながら、(骨盤)には非恐竜的な特徴を残しているそうだ。

アシリサウルス

アシリサウルスの復元骨格。

アシリサウルスの骨盤

アシリサウルスの骨盤。恐竜と異なり、寛骨臼(大腿骨がはまるくぼみ)が骨盤を貫通していない。

 この生物の発見によって、恐竜が、いつ、どのように他の爬虫類から分化してきたのかという進化上の謎に、新たな光が当てられることになった。展覧会の「ナビゲーター」に任命されているアシリサウルスは、恐竜の進化を考える上で、とても重要な存在なのである。
 アシリサウルスの標本の後には、比較として初期の恐竜たちの標本が並ぶ。

エオラプトル

最初期の恐竜のひとつ、エオラプトル。

ヘテロドントサウルス

恐竜類でありながら、哺乳類のように切歯、犬歯、臼歯を持つヘテロドントサウルス。

 アシリサウルスと並べられたこれらの恐竜たちの標本は、「恐竜」という分類群と定義についてさまざまな示唆を与えてくれる。
 ここからテーマは「起源」から「植物食」へと移り変わる。
 主役は、南米パタゴニアのジュラ紀後期の地層から発見されたチレサウルス(Chilesaurus diegosuarezi)だ。

チレサウルス

竜脚形類、鳥盤類の特徴も併せ持つ奇妙な植物食獣脚類、チレサウルス。

 この恐竜は、獣脚類でありながら、ブロントサウルスなどを含む竜脚形類のような歯や顎と、トリケラトプスなどを含む鳥盤類のような骨盤や後肢を持ち、植物を食べるという奇妙な特徴を持っている。獣脚類の中には、他にもコエルロサウルス類の一部に、雑食もしくは植物食と考えられる種が存在するが、チレサウルスはコエルロサウルス類とは系統学的に大きく隔たっており、しかも植物食への適応の仕方も違っていたという。コエルロサウルス類は歯を捨て、鳥類のような嘴を獲得することで植物食に対応したが、チレサウルスは、歯の形を変え、牛のように植物を歯ですりつぶして食べていたと考えられるのだ。この恐竜の発見は、獣脚類という分類群の捉え方に、変更を促すものとなった。
 続いて登場するのは、翼竜とも始祖鳥とも異なる、「皮膜を持った恐竜」、イー(Yi qi)である。
 中国遼寧省のジュラ紀中期から後期の地層で発見されたこの恐竜は、コウモリやムササビのような皮膜を前肢に備えていた。この皮膜を用いて木から木へと、それこそムササビのように滑空して生活していたようなのだ。

イー

皮膜を持つ恐竜、イー。

 この恐竜の発見は、恐竜たちの空への適応が、決して1本道ではなかったことを明らかにした。
 恐竜から鳥への進化は、羽毛恐竜の出現から始まったと考えられている。恐竜の中から、体表に羽毛を持つものが現れた。おそらくは体温保持のための適応だったはずだが、同時にそれは、体の空気抵抗を大きくする効果も持っていた。やがて、その空気抵抗を利用して木から木へと滑空するものが現れ、その中から、羽ばたいて揚力を得ることのできるものが登場し、鳥へと進化していったのだ。これまで、恐竜の空への挑戦は、このルートだけだと考えられていた。たまさか羽毛を持っていたから、それを使って飛ぼうするものが現れたというわけだ。しかし、イーの発見は、その定説に疑問を投げかけるものとなった。恐竜は、必ずしも、“羽毛があったから”飛ぼうとしたわけではない。失敗には終わったものの、羽毛とは無関係に空を飛ぼうとした恐竜が、確かに存在していたようなのである。
 イーとの比較として、さまざまな羽毛恐竜や原始的な鳥類が紹介されたあと、いよいよ、この展覧会の目玉が登場する。
 2013年に新たな化石が発掘されたことで、その真の姿が明らかになりつつある世界最大の獣脚類、スピノサウルス(Spinosaurus aegyptiacus)である。

スピノサウルス

水中生活に適応していたことが示唆される獣脚類、スピノサウルス。

 スピノサウルスは、古くからその存在を知られていたが、第2次世界大戦で唯一の化石標本が消失してしまったために、研究が滞り、長らく謎の恐竜とされてきた。背中に帆を持つ、ティラノサウルスを凌ぐ大型恐竜だということはわかっていたが、その詳しい特徴や生態は、わからないままだったそうなのだ。わからないままに、映画の主役にされていたりもしたが、新しく見つかった化石が、恐竜に対する理解を大きく深めることになったという。
 スピノサウルスの大きな特徴のひとつは、通常の脊椎動物ならばあるはずの骨の中の空洞がなく、みっちりと骨で埋まっていることであるそうだ。これは、海獣類やペンギン類など、水中で暮らす動物に見られる特徴である。骨を重くすることで体を浮きにくくし、水中で活動しやすいようにしているのだ。このことから、スピノサウルスは水中生活を営んでいたのではないか、と考えられているという。
 もうひとつの特徴は、他の獣脚類に比べると体に対して骨盤が小さく、後肢も短いということだ。代わりに、前肢は大きくがっしりとしている。実際復元骨格を見てみると、前肢と後肢との間に、大きな差がないことがわかる。これはこの恐竜が、4足歩行をしていたことを示唆するそうだ。スピノサウルスは、4足歩行で姿勢を低くし、水の中に潜むという、獣脚類としてはとても珍しい生態を持っていた可能性が高いようなのである。
 また、長い吻部をよく見ると、先端に小さな穴がたくさん開いていることがわかる。これは、神経が通っていた穴だとと考えられるそうだ。この形態は、ワニ類の吻部にある圧力を感じるセンサーと似ているという。彼らは視界の悪い水中で獲物を周囲を把握するために、吻部のセンサーを活用していたかもしれないのだ。
 長い吻自体も、ワニとの収斂進化の産物なのではないか、という気もした。

スピノサウルスの頭部

スピノサウルスの頭部。吻部に小さな穴がたくさん開いている。

 なお、世界最大であるその大きさと形態の特異性を際だたせるため、会場には、最大級のティラノサウルス(Tyrannosaurus rex)、「スコッティ」の復元骨格も展示されている。

スコッティ

最大級のティラノサウルス「スコッティ」。

 通路を挟んで両者が向き合う様は壮観だった。
 こうして大きな恐竜たちに圧倒された後には、可愛らしい「小さな恐竜」の登場である。角竜の1種カスモサウルス(Chasumosaurus sp.)の幼体と、カモノハシ竜の1種パラサウロロフス(Parasaurolophus sp.)の幼体の、ほぼ完全な全身骨格だ。幼体は骨がやわらかく、化石として残りにくいため、この2体の骨格は大変貴重なものになっているという。

カスモサウルスの幼体

カスモサウルスの幼体の全身骨格

パラサウロロフスの幼体

パラサウロロフスの幼体の全身骨格。

 幼体の化石は、その恐竜の生活史を知る上で重要な情報を与えてくれるものだという。展示の後半では、化石を調べることで推察されたというパラサウロロフスの幼体の鳴き声を聴くことができた。そのピッチは、成体とはだいぶ異なったものだったようで、音声によって、離れた場所でも相手の年齢を判断することができたのではないかと解説されていた。幼体の化石は、この恐竜の個体間コミュニケーションについて重要な情報源となっているのだ。
 最後に登場するのは、これまで獣脚類だけが持つと考えられてきた羽毛を持つ鳥盤類恐竜、クリンダドロメウス(Kulindadoromeus zabaikalicus)である。

クリンダドロメウス

羽毛を持つ鳥盤類、クリンダドロメウス。

 飛翔のところでも触れたように、羽毛は、獣脚類の恐竜が、体温を保持し、高速で運動するために獲得したものだと考えられてきた。羽毛が体温を保持できるのは、熱を体の中で生み出すことができる、つまり恒温性を獲得している場合に限られる。羽毛の効果は、体と外界との間に空気の層を作って熱の行き来を妨げることだけだからだ。もし、一般的な爬虫類のように、体温を保つための熱を外界に依存している場合には、羽毛によって空気の層を作ってしまうと、外界から熱を取り入れにくくなってかえって不利になってしまう。要するに、「羽毛を発達させた」ということは、イコール恒温性だったとみなせるわけだ。これまでは、羽毛を持つのは獣脚類だけ、つまり恒温性なのは獣脚類だけだと考えられてきた。少なくとも、獣脚類と竜脚形類を含む竜盤類だけだと考えられてきた。しかし、クリンダドロメウスが発見されたことで、より多くの恐竜が恒温性を持ち、恐竜の恒温性獲得はより古い時代にまで遡れるという可能性が浮上してきたという。もしそうだとすれば、それこそが中生代を「恐竜の時代」とした当のものであるのかもしれない。クリンダドロメウスの発見は、恐竜の進化に関するストーリーを根本から書き直さなくてはいけなくなる可能性を秘めた、大事件であるようだ。
 以上のように、恐竜博2016では、日本初公開の実物標本とそこから得られた知的好奇心をくすぐる新発見が、山のように紹介されている。恐竜オタクでなくても楽しめる内容になっていると思う。展示されている標本の数は、ここの紹介したものの何倍もある。クリンダドロメウスの産状化石(発見された状態を保存した標本)に見られる羽毛の痕跡や、琥珀に閉じ込められた羽毛の化石など、おもしろい展示が目白押しだ。第2会場では、衆人環視の中で研究者の方が化石のクリーニング作業に勤しんでいたりする(フラッシュ禁止、としか書いてなかったけど、肖像権的なアレはどうなっているんだろう?)。このゴールデンウィークにでも、ぜひぜひ訪れてみて欲しいと思う。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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