菌類の驚くべき生態に迫る。

      2016/05/08

 真菌類――カビやキノコの仲間は、私たちにとって馴染みの深い生き物のひとつである。
 夏場、戸棚の奥に忘れ去られていた食パンに色とりどりのカビが生えていた、というのは誰しも経験することだろうし、お風呂場の目地に生えたカビとの戦いは休日の一大イベントとなっている。自身の足の指の間に巣食った水虫との消耗戦に疲弊している人も多いだろう。
 迷惑ばかりではない。真菌類は、私たちの生活に潤いを与えてくれてもいる。カビに侵されて捨てざるを得なくなった食パンも、酵母菌によるアルコール発酵がなければ作れないものだし、その酵母菌と、米の澱粉をブドウ糖に変える麹黴の力がなければ、私たちはあの豊かな日本酒文化を育むことはできなかった。日々の食卓に、椎茸や榎茸や舞茸といったキノコが欠かせないことは言うまでもない。
 真菌類は、良くも悪くも、私たちの生活とは切り離せない存在だ。
 しかし、それにも関わらず、真菌類がどのような生き物であるのかは、人々にあまり知られていないように思われる。
 これは名称が災いしているのだろうけれども、大腸菌や結核菌などの細菌類と、真菌類との区別があやふやな人は多いし、キノコはあれが「本体」だと思っている人も少なくない。
 かくいう私も、個々の真菌類がいったいどのような生活をしているのか、実はよくわからない。
 真菌類は、人間と関わりが深いにも関わらず、分類群まるごとが(一般の人にとって)大きな謎に包まれた不思議な分類群なのである。
 そんな真菌類の知られざる姿をわかりやすく説明してくれるのが、国立科学博物館・日本学術振興会特別研究員PDの白水貴(しろうず・たかし)理学博士の『奇妙な菌類 ミクロ世界の生存戦略』(NHK出版新書)という本である。本書は、「そもそも真菌とはどのような生き物なのか」という基本的なところから、個々の真菌のあっと驚くような生態まで、真菌に関するアレコレを、詳しく説明してくれている。
 本書を読むと、真菌が、多様な生態を持つとても興味深い生き物であることがよくわかる。
 アリの体を乗っ取って操り、胞子散布に都合のいい場所まで移動させるカビ、植物に寄生して花そっくりな構造を作らせ、そこで作った胞子を、花だと勘違いしてやってきた昆虫に散布させるカビ、自らの体で刺し網を作って線虫を捕獲し、そこから栄養をとるカビ……。湿ったところにそっと生えて、息を潜めるように生きているような印象を持たれがちが真菌だけれど、実際には、とてもカラフルでアクティブな生き物なのだ。
 「過去」に目を向ければ、植物の上陸を助けたり、土壌の形成を促進したり、樹木が「リグニン」として死蔵してしまった有機物を分解して再利用可能にしたりと、真菌は生態系の発展に、生物の進化に、重要な役割を果たしてきた。「現在」は、樹冠と林床をつなぎ森林全体に栄養供給の網の張り巡らせる「菌根菌ネットワーク」の構成者として欠かせない役割を果たしている。プラスチックやダイオキシンを分解することで、「未来」にも貢献しようとしている。
 動物でも植物でもない、第3の高等生物。本書を読めば、その驚異の生態にきっと魅せられることであろう。
 ひょっとしたら、パンをダメにした青カビにも、いささかの愛着を感じることができるようになるかもしれない。
 ぜひぜひ、読んでみて欲しい。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

 - 自然の本 , ,