ドングリを拾いに。

   

 私が、今のアパートに入居を決めたのには、いくつかの理由がある。
 ひとつはもちろん、猫と暮らすことを前提として作られた物件であることだ。
 壁紙は上下に分割され、下半分は爪とぎに強い素材になっているし、廊下からリビングに入るドアにはキャットスルーがついている。きちんと猫が飼える、というのは、なにしろ重要なことであった。
 もうひとつは、小さいながらも庭がついていることだ。
 入居を決めるにあたって、これも決定的な要素だったと言っていい。
 100cm×50cmのウォーターランドタブを余裕を持って置ける場所があること、というのが、物件選びにおいて極めて重要だったからである。
 単身用のアパートによくある背伸びした室外機置き場みたいなベランダには、とうていこの巨大な水槽を設置することはできない。前に住んでいたアパートでは、ベランダ全体をタブに占拠されてしまい、1歩も外に出ることができなくなってしまっていた。排水設備が貧弱な場合も、階下に水漏れするおそれがあるのでタブを置くには適さない。
 その点、庭ならば安心だ。なにしろスペースはたっぷりあるし、床が抜ける心配をする必要もない。溢れた水が階下の住人の洗濯物を汚してしまうこともない。カメを飼うには、これほど好ましい条件はないと言える。
 しかも、庭に生える雑草は、リクガメの餌にもなる。
 たまたま空いていたのが1階の部屋だったというのは、むしろ幸運というべきものであろう。
 しかし、なにより重要だったのは、家の裏手がすぐ公園、という条件である。
 転職の必然としてしばし昇給が停滞し、一方で首都圏に住む以上家賃の上昇は避けられない、という状況の中で、公園が近いという立地は、私にとってとても大事なことだった。
 なぜなら、それは、食費の圧縮につながるからである。
 千葉県では、街路や公園などの緑地に、マテバシイが植樹されていることが多い。マテバシイは、大型のドングリをつけるブナ科の植物である。コナラやクヌギのようなナラ属と違って、マテバシイのドングリには渋がなく食べやすい。甘みの薄いクリ、といった風情だ。しかも、豊作不作の波もない。毎年、安定して大量のドングリが供給される。
 つまり、マテバシイが近くに生えていれば、毎年秋になると、安定した食料が手に入る、ということなのである。
 もちろん、マテバシイのドングリだけで生活できるわけではない。けれど、小腹が空いた時のおやつ代わりくらいにはなるし、澱粉が豊富だから多少なりとも米の消費を抑えることができる。自分以外の食費が嵩みがちな我が家にとって、人間の食費を抑えられるというのは死活的に重要なことなのである。
 食費が抑えられれば、その分、トカゲモドキが飼える。
 だから、すぐ裏手が公園であるということに、私は惹かれたのである。
 昨日、件の公園を歩きまわって、マテバシイが生えていることを確認し、私はほくそ笑んだ。
 秋になったら、喜々としてドングリを拾いに行く所存だ。
 学生ならともかく、三十路の男がドングリで命をつなごうとするのははなはだ惨めかもしれない。
 しかし、その惨めさは、ページビューに跳ね返ってくるタイプのものだと私は思っている。高知県で消耗するのと同じことだ。
 というわけで、今から秋が楽しみなのである。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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