「六本木クロッシング2016:僕の身体、あなたの声」に行ってきた。

      2016/05/01

 「六本木クロッシング2016展」に行ってきた。
 「六本木クロッシング」は、森美術館が3年に1度開催しているシリーズ展である。今年は、「僕の身体、あなたの声」という副題がつけられていた。IT技術の進歩やSNSの普及によって人間関係や社会制度に変化が強いられている現代にあって、「“私”とはなにか」、「“私”はどのように世界と関係しているのか」といったことを探究するアーティストの作品を集めているそうだ。
 印象に残った展示は2つあった。
 ひとつは、片山真理の作品だ。
 幼いころに両足を切断し、以来、義足を使う生活を続けてきた片山真理は、足のない自らのポートレイトや、自身の身体をモチーフにした造形を制作している。会場には、そのうちのいくつかが展示されていたが、その中で、ひとつの作品が私の目を引いた。
 この作品だ。

 足先のないこの造形は、片山自身をモチーフにしていると思われるけれど、よく見るとその足は、太腿の付け根で胴体から切り離されている。これは、右足の膝、左足の足首という片山本来の切断箇所とは異なるものだ。さらに見ていくと、造形からは、両腕も切り離されていることに気がつく。
 「身体」が、現実の片山よりも、「縮小」されて再現されているのである。
 この表現は、「自分」というものの境界線について、再考を促しているように私には感じられた。
 たとえば、自動車を運転しているとき、私たちはその車の外側を、自分の目で見ることはできない。それにも関わらず、乗り慣れた車であれば、まるでそれが自分の身体であるかのように、その車幅感覚を把握し、狭い路地でも通り抜けていくことができる。車を運転しているとき、私たちの身体は「延長」している。
 一方で、自分の身体であるはずなのに、その延長を把握できずに、手や足を何かにぶつけることもある。手術の前、外科医が消毒した手を顔の前に掲げるのは、目に見える場所に手をとどめ、うっかりなにかに触れてしまうのを防ぐためだ。見ていなければ、「自分の身体」ですら容易に私たちは見失う。そのとき、私たちの身体は「縮小」している。
 幼いころから義肢をつけて生活を続けてきた片山は、そのような身体の(正確に言えば身体感覚の)拡大や縮小を、より強く意識してきたのではないだろうか。そのために、「自分の身体とはなんなのか」について、人よりも深く、考えることになった。それが、作品に表れているように思われた。
 腎不全や肝不全に陥った患者に移植された腎臓や肝臓は、果たして患者にとっては「自己」なのか「非自己」なのか。
 白血病などで骨髄移植を行なった場合は、自己と非自己を識別する免疫システムそのものが、他人のものと入れ替わる。そのとき、「私」はどのように定義されるのか。
 テクノロジーの進歩によって、「自己」と「非自己」の境界線はあやふやになっている。
 片山の作品は、そのことをあらためて突きつけてくるものだった。
 もうひとつ、印象に残ったのは、長谷川愛による「(不)可能な子供」だ。

 iPS細胞の登場によって、同性同士で子どもを作ることが、技術的には可能になると言われている。しかし、その技術を実用化すべきか否かについては、賛否両論がある。長谷川は、その現状を踏まえ、一組の女性カップルが子どもをもうけたらどうなるのか、というシミュレーションを作品にした。実在の女性2人の遺伝的特徴を解析し、その特徴から生まれうる2人の子どもをCGで作り出したのである。会場には、ひょっとしたら将来、普通に目にするようになるかもしれない家族の風景が、いくつかの写真で再現されている。
 この作品が印象に残ったのは、臨床獣医師を経て、編集者になったからかもしれない。
 「(不)可能な子供」は、ほぼほぼ学術的な、ともすれば無味乾燥で、講義開始5分で学生が寝るような内容でありながら、アートとして成立しえていた。医学的なテーマを、こんなふうに、アートとして見せることができるのだ、ということが、刺激になったのである。
 他にも、「僕の身体、あなたの声」には、刺激的な展示がいくつもあった。映像作品が多く、そのままを紹介できないのが残念だが、たいへんにエキサイティングな空間になっていることは間違いない。
 会期は7月10日まで。ぜひ、足を運んでみて欲しい。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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