京子の策略

      2016/03/18

 今日、家に帰ってきて、ドアの前に立ったら、向こう側からやたら必死な猫の声が聞こえてきた。
 にゃあ〜にゃあ〜にゃあ〜。
 どこで息継ぎをしているのかわからないくらい矢継ぎ早に鳴き声が聞こえ、已むことがない。
 いつにない事態である。
 たいてい、鍵を開けるときには猫たちは私の帰宅に気づいており、どたどたと玄関へ走ってくる音が聞こえるのだが、そんなときでも、鳴き声はほとんど聞こえない。
 こんな鳴き方は明らかに異状だ。
 何かあったのか?
 不審に思いながらドアを開けたら、まだらが転がりでてきた。
 勢い余って私の足元を通りすぎてからおっとっとと立ち止まり、何か救いを求めるように、私を見上げてにゃあと鳴く。
 声の主はまだらだったようだ。
 一方の、京子の姿は見当たらない。
 いつもなら2匹一緒に出迎えに降りてくるから、これもおかしい。
 いったいなんなんだ?
 必死にまとわりついてくるまだらをなだめすかしながら階段を登って行くと、予想外の光景が目に飛び込んできた。
 リビングのドアが、閉まっている。
 私は眉を潜めた。
 猫が自由に行き来できるように、私は確かに、リビングのドアを開け放って出かけたはずだったからだ。
 なんで閉まっているのだ?
 しかし、まだらが必死だった理由はとりあえずわかった。
 猫のトイレも、水飲み場も、リビングに設けてある。廊下に閉めだされてしまったら、それは慌てるだろう。
 考えるのは後回しにして、私はリビングのドアを開けた。
 一目散に部屋に駆け込み、水を飲むまだら。
 よほど喉が渇いていたようだった。
 リビングには、京子が1匹でくつろいでいた。
 その姿を見て、なるほど、と私は思った。
 リビングのドアは、内開きになっている。
 きっと、まだらが廊下へ出ている間に、京子が誤ってドアを閉めてしまったのだろう。遊んでいるときに身体がぶつかったか何かして。
 ドアは、磁石で床に固定できるようになっているだけなので、強い力でぶつかれば動くことはありえないことではなさそうだった。
 私は、京子を軽く睨んで言った。
「気をつけなければ、だめでしょう?」
 にゃあ、と京子は鳴いた。
 あんまり聞いていなそうだった。
 まあよい。
 どう考えても、これは事故だ。
 京子とて、わざとやったわけではないだろう。
 もう、こんなことは起こらないはずだ。
 私はそう納得して、2匹に餌をやった。
 しかし、である。
 私の読みは、甘かったのである。
 風呂に入って、出てきてみると。
 なんとまたしても、リビングのドアが閉まり、まだらが閉めだされてしまっていたのだ。
 またしても、1匹でくつろいでいる京子。
 私は驚いて、京子を凝視した。
 いや、まさかな。たまたまだ。たまたま。
 そう自分に言い聞かせて、私は、買ったばかりのペンタブの設定をするためにパソコンに向かった。
 しかし、である。
 設定をしながら、今度は私は目撃してしまったのだ。
 自分が部屋にいるからと、固定しておかなかったリビングのドアを、まだらが廊下に出ているうちに、京子が、そ、と閉めるのを……。
 ドアがぱたりと閉まると、京子は私を見て、「にに」と鳴いた。
 その時、疑惑は、確信に変わった。
 これは……わざとだ。
 仲がいい姉妹だと思っていた2匹の間に起こっているかもしれない事態に、私は今、戦慄しながらこの文章を書いている。

 思い過ごしであってくれ。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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