オオトカゲで嫉妬

      2016/03/13

 いつも、爬虫類のエサを買いに行くホームセンターで、今、サバンナオオトカゲの子どもが販売されている。
 サバンナオオトカゲは、アフリカの乾燥地域に生息している、全長1mほどになるオオトカゲの仲間である。
 気性がそれほど荒くない個体が多く、大きさもそこそこで、大型のトカゲの仲間としては飼育難易度の低い方なので、そのテのトカゲの入門種として人気の高いトカゲである。
 私は、オオトカゲの仲間をいつか飼いたいと願いながら、早十余年の時を過ごしている。
 だから、ホームセンターの店頭でそいつが売られているのを見つけたとき、思わず喉から手が出そうになった。というか出た。
 しかし、私は慌ててその手を引っ込めた。
 猫を拾うという想定外のトラブルの結果、我が家には、これ以上大型動物を飼育するスペースも金銭的余裕もなくなってしまっているからだ。
 誰かを里子に出さなくては、新しい動物は連れてこれない。
 いや、でも逆に言えば、誰かを出せば入れられるのだ。
 京子はモテ猫だ。
 ヘルマンリクガメなら貰い手がつくか。
 いやいやいやいやいやいや。
 できるわけがないだろう。
 私は3時間、売り場でトカゲを眺め続けた末に、常識的結論に帰結した。つまりは断念したわけだ。
 それでも、未練たらたらな私は、そのホームセンターに買い物に行くたびに、サバンナオオトカゲのケージの前に張り付いていた。
 情けない男である。
 昨日も、私はそうして、トカゲの姿を眺めていた。
 欲望丸出しの目で。
 そこへ、
「なにしてんですか?」
 と突如声をかけられたのだから、その時の動揺はすさまじかった。
 声の主は同じ病院に勤めるアニテクさんだった。
「え、あ、いや……。エサのコオロギを買いに来たんだよ」
 私は、しどろもどろになりながら答えた。別にエロいものを見ていたわけでもないのに。
「ああ、おんなじですね」
 と、アニテクさんは言った。そのアニテクさんも爬虫類が好きで、カメやらトカゲやらを飼っているのだ。
「それで、まあ、これが欲しいなぁ、と思っててね」
 そう言って、私はオオトカゲを指さした。
 すると、アニテクさんの口から、驚くべき言葉が飛び出した。
「ああ、それ、私、飼ってますよ」
「えっ!?」
「ほら、こないだのレプタイルズショーで。気に入ったので、買ってきたんです」
「まじで」
 私は、言葉遣いが乱れるくらいに驚いていた。
 これを、飼ってる? 嘘。
「まだ小さいので、コオロギ、足とって頭つぶしてあげなきゃいけなくて大変です」
 そう語るアニテクさんは、言葉とは裏腹に幸せそうなのだった。
 私は、呆然としてアニテクさんを見ていた。
 その時、私の心の中にたぎっていたのは、他でもない、嫉妬であった。
 7つの大罪にも数えられているその気持ちを、あろうことか、私は目の前の女の子にいだいていたのだった。
 自分が欲しいと思っているトカゲを飼っているという、そんな理由で。
 とても大人とは思えなかった。
 偶然出会って、2人とも休暇なわけだから、あるいはお茶くらい誘ってもよかったのかもしれないが、私はそそくさと、その場を立ち去ることしかできなかった。
 悔しすぎて。
 帰り道、車のハンドルを握りながら、私はずっと考えていた。
 俺はもうダメかもしれない、と。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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