酔拳撮影法。

      2016/05/29

 デジタルカメラの進歩には、目覚ましいものがある。
 今や、スマートフォンについている簡易なカメラであっても、明るく、背景のほどよくぼけた、綺麗な写真が撮れてしまう。一般向けの安価なデジタルカメラでも、練習すればプロ並みの写真を撮ることができる。通信技術も発達し、wifiに接続して撮った写真をパソコンを介さずにWebに上げることも、普通になってきた。
 高校1年生のとき、アルバイトして貯めたお金でフィルム式の一眼レフを買い、貴重なフィルムを無駄遣いしないように慎重に慎重に写真を撮っていた私などからすると、なんでここにドラえもんや鉄腕アトムがいないのだ、と思えるくらいに未来的な状況である(大学に入る頃には、学生にも買えるくらいのデジタル一眼レフカメラが登場していたわけだが)。
 なんとも素晴らしい。
 もちろん、どんな進歩にも必ずネガティブな側面はある。カメラの進歩もご多分には漏れない。
 カメラの進歩は、私たち動物飼育愛好家に、「ついつい写真を撮り過ぎてしまう」という弊害をもたらした。
 飼育者の目に、飼育動物は、24時間ほとんど天使のように映っている。餌を食べたとか、水を飲んだとか、そんな些細なふるまいさえも、聖画に描かれた奇跡のように見えてしまう。一挙手一投足が、記録に値する歴史的瞬間である。
 だから、無限に写真を撮ることのできる装置があると、無限に写真を撮ってしまう。
 まるで精神的な病気みたいに。
 言うまでもなく、私もその病に罹患している。
 どんな用であれ、飼育室に入るときには、カメラを持たずにはいられない。
 私の場合は、写真を通じて生き物の魅力を世間に訴えたいという別の困った欲求まで持ち合わせているものだから、持ち込むカメラも、スマホどころではない、ということになる。
 マクロレンズを装着した一眼レフカメラを作業用のワゴンに載せて、私はトカゲモドキたちの世話をする。彼らが少しでもきゅんとくるポーズをしていたら、即座に霧吹きをカメラに持ち替えて、シャッターを切る。
 なんとも効率の悪い作業である。
 このとき、私を悩ませるのが、室内の光量不足だ。
 私が飼育している生き物はあらかた夜行性なので、世話は夜が多くなる。
 と、必然的に、部屋のLED照明に頼って撮影せざるをえなくなる。
 6畳の部屋に8畳用のタイプがついているとはいえ、室内用の照明の明るさなど、たかが知れたものだ。最大の明るさにしたとて、雨の日の屋外よりもまだ暗い。暗いということは、シャッタースピードが遅くなるということだ。手ブレ補正機能のついたカメラを持っていなかった頃には、手ブレを回避できず撮影を諦めていたくらい、夜の室内というのは写真撮影が難しい(達人だと、シャッタースピード10分の1秒以下でもブレないらしいけれど、私にはできない)。
 そんな中で、手ブレを最小限に抑えて写真を撮るためには、絞りをめいっぱい開く必要がある。絞りを開くとたくさんの光を取り込むことができ、シャッタスピードを上げられるからだ。
 しかし、すると今度は、別の問題が発生する。
 ピントの合う範囲が、非常に狭くなってしまうのである。
 トカゲモドキたちは小さいので、大きく写すためには、思いっきり近寄らなければいけない。すると、ますますピントの合う範囲は狭くなる。目にピントを合わせると、鼻がぼやける、という具合だ。悪くすると、角膜の表面にピントが合っている時に、眼瞼はもうぼやけていることさえある。
 だから、ピント合わせがとてもシビアで、ほんの少し動物が動いただけでも、ピントを合わせ直さなくてはいけなくなる。
 ブレを回避すると、今度はボケとの戦いが待っているのだ。
 もちろん、そんな事情を酌んで、カメラを向けられている間じっとしてくれるような動物はいない。彼らは、好きなように動きまわる。それに合わせて、こちらはピントを合わせなければいけない。
 オートフォーカスではとても間に合わないので(クローズアップ撮影では、ほとんどゼロ距離から無限遠までの間でカメラがピントの合う位置を探すので、とても時間がかかるのだ)、マニュアルでピントを合わせる。が、これもなかなかに大変である。あるいはプロ仕様のものなら楽なのかもしれないけれど、お金をケチって使っている安物のマクロレンズには、ピントを調節するフォーカスリングに、距離の目安がついてない。今、カメラのピントがどのくらいの距離に合っているのかわからない状態で、勘でリングを回さなければいけない。
 と、ピント合わせにもたついているうちに、トカゲモドキはまたふらふら歩いて行ってしまう。
 とても写真など撮れたものではないのだ。
 悩んだ末に、私が辿り着いたのは、フォーカスリングではなく、動物の動きに合わせて自分が前後に動くことで、ピントを合わせる、という方法だった。
 ピントはだいたいのところで固定しておいて、動物が近づいてきたら少し下がり、動物が遠ざかったら前に出る。動物との距離に合わせてピントの位置を変えるのではなく、動物と自分との距離を、ピントが合うように一定に保ち続ける。それが、いちばん早いことに気がついたのだ。
 だから最近の私は、まるで酔っ払ったように前後にゆらゆらと揺れながら、写真を撮っている。
 傍から見たら、相当異様な姿に違いない。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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