『キミとボク』が素晴らしい。

   

 『キミとボク』という映画をDVDで観た。
 45分の短編映画だ。
 漫画家を目指す青年と、彼が七夕の夜に拾った猫「銀王号」との、10年間の暮らしを描いている。
 原作は、やまがらしげとが自身の実体験をもとに制作し、2001年に公開したFLASHアニメである。
 この映画のいいところは、特別な事件がなにも起こらないことだ。
 動物モノの作品にありがちな、あざといお涙頂戴が一切ない。
 銀王号は保健所で殺処分されそうになっていたわけでもないし、虐待を受けていたわけでもない。
 青年が難病を患っているわけでもない。
 銀王号を飼うことで、青年の人生に何か転機が訪れるわけでもない。
 青年と銀王号との共同生活がただ淡々と続き、当時の飼い猫の平均寿命に達した銀王号が、おそらくは慢性腎不全と思われる病でこの世を去って作品は終わる。
 どこにでもある、普通の猫の普通の一生が描かれるだけである。
 それが素晴らしい。
 特別な事件なんかなくっても、動物との暮らしは、ただそれだけで作品になることを証明しているからだ。
 普通の猫の普通の一生を描いているだけなのに、映画が終わる頃には、涙が頬を伝っている。
 淡々と、2人の暮らしぶりが描かれているだけなのに、主人公の青年にとって、銀王号がかけがいのない存在であったことが、きちんと伝わってくる。
 人と動物の絆を描くのに、事件や不幸は必要ないことが、この作品を観るとよくわかるのだ。
 それは、実際に動物と暮らしている私たちが、日々感じていることでもある。
 動物を飼ったからといって、生活が一変するようなことはあまりない。
 恋にも、仕事にも、特に変化は現れない。
 これまで通りの暮らしが、これまで通り続いていくだけだ。
 ただ、そこに動物がいる。
 それだけである。
 それだけで、ほんの少しだけ、生活が彩られる。目を凝らしてみないと、灰色の背景に飲み込まれてしまうくらいに、ほんの少しだけ。
 その、ほんの少しの積み重ねが、いつの間にか、大きなものになっている。
 動物と暮らすというのは、そういうことだ。
 『キミのボク』は、そのことをシンプルに伝えてくれる映画である。
 人と動物の絆を感じるのに、これ以上のものはない。
 よい作品だと思う。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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