なぜ、男性飼育者と女性飼育者はすれ違うのか。

      2016/03/18

 少々危うい話をする。男女の性差に関わる話である。
 ヨタ話なので、あまり真剣に考えずに読んでいただきたい。
 爬虫類専門誌「ビバリウムガイド」の60号に、編集長の冨水明さんが、ビバリウムガイドの読者を集めて開いた座談会の模様が収録されている。冨水さんをホスト役として、2人の男性飼育者(カメさん、ヘビさんという仮名)と、1人の女性飼育者(レオさん、という仮名)が参加し、爬虫類について語ったものだ。
 その座談会では、男性飼育者と女性飼育者が、動物への接し方を巡って衝突する場面が散見された。

レオ チョコちゃんの餌を買いにと、ハチュ友(引用者注:ハチュは爬虫類のこと。ハチュ友さんは爬虫類友達)との待ち合わせに。このあとハチュ友さんと新年会なんですよ(笑)。
冨水 チョコちゃん?…はヒョウモン(引用者注:ヒョウモントカゲモドキ)か。ああ、できれば名前じゃなくて種類で話していただけるとありがたいです(苦笑)。

カメ 行く店は2軒か3軒ですね。多いときは毎週でも行くし、少なくても月に1回は行きます。なんだかんだいまだに月に1回はカメ買ってます(笑)。
レオ そんなにカメ買って、ちゃんと飼えるものなんですか?
カメ 大丈夫…じゃないときもありますけど(苦笑)、まあ大丈夫です。けっこう手放すことも多いし。
レオ それが理解できないんですよね。手放すなら飼わなきゃいいのに。

冨水 言わない。口が裂けても言わない。まあ、レオパはまだね。自分の本でも使っちゃったし(苦笑)。ハチュは正直、聞くのも嫌だ。
レオ ダメなんですか?
冨水 いや、嫌なだけで注意しようとまでは思わない。なんか生き物に対するリスペクトがまるで感じられないんだよなあ。まあ、こればっかりは時代だからそれでいいんだけど。
レオ ハチュって可愛いじゃないですか(笑)。
冨水 だ〜か〜ら〜、その可愛いって感覚自体を理解できないんだってば(笑)。

 これらの衝突は、男性飼育者と女性飼育者との間に少なからず存在するものである。
 男性の飼育者は、クラシックファンがレコードを収集したり、虫屋が虫を採りまくって標本をずらりと並べたりするように、爬虫類をコレクションしようとする傾向が強い。1頭1頭に思い入れがあるのだとしても、彼の愛着の対象は個体というよりは「コレクション全体」であり、それを完成させることの方により大きな関心が払われる。一方で女性の飼育者は、あたかも犬や猫を飼うように爬虫類を飼うことが多い。犬と飼い主の間には1対1の関係が築かれるものだが、それと同じように、彼女たちは爬虫類との間にも、1対1の関係性を築こうと試みる。目の前の1頭を愛でるのである。
 そのような傾向の違いの結果、男性飼育者と女性飼育者との間には確執が生まれる。
 女性飼育者は、男性飼育者の飼育動物に対する接し方には愛がなく、動物がかわいそうだと思い、男性飼育者は、女性飼育者の飼育動物に対する接し方はベタベタしすぎで気持ち悪いと思う。それゆえ、お互いに、「なんでそんなふうに扱うんだ?」と疑問に思い、ときに憤るのである。
 このすれ違いは、ビバリウムガイドが巻頭特集で扱うくらいに、爬虫類飼育者の間では「あるある」と化している。爬虫類を飼っていて、ちゃんと人間とも関わっている人であれば、たぶん誰もが一度は感じたことがあるはずだ(私は“かわいさ”を狙った爬虫類写真も撮る人間だが、「ハチュ」という言葉は苦手だ)。
 動物行動学者の小林朋道さんが書いた『ヒトはなぜ拍手をするのか 動物行動学から見た人間』という本には、その「なんで?」を扱った章がある。動物への接し方が男女でなぜ違うのかについて考察した文章だ。その中で小林さんは、動物への接し方の男女差についての仮説をひとつ提示している。
 小林さんによれば、小学生の子どもたちをヤギと触れ合わせたところ、その接し方に性別による違いが認められたという。女子はほとんどがヤギの頭や体をなでたり、餌を与えたりといった世話行動をするのに対し、男子の中にはヤギにまたがったり、ヤギの角を持って押してみたりといったコントロール行動をとる者が多く現れたそうである。また、小林さんが高校の教員時代、生物準備室で飼育していたハムスターに対して、女子生徒はたいてい抱き上げたり、頬ずりをしたり、話しかけたりという「人間の赤ん坊に対して母親がとる行動」を発現してみせたのに対し、男子生徒はほとんど関心を払わなかったのだそうである。男子が関心を寄せたのは、むしろ水槽の中の魚やエビであったという。
 認知や思考の男女差に関する研究によって、男性の脳の特性は狩猟や戦闘に向いたものになっており、女性の脳の特性は植物採集や子どもの世話などに向いた内容になっていることが示されつつあると小林さんは述べる。その上で、男女の間で動物に対する接し方に違いがあることの説明として提示したのが次の仮説だ。

 男性は哺乳類などの動物を前にしたとき、しばしば、狩りを司る脳の神経領域が強く活性化し、動物を追ったり、自分の思う場所に誘導したりする衝動がわき上がる。一方、女性では、子育てに関わる脳の神経領域がより強く活性化し、スキンシップをとったり、世話をしたりする衝動がわき上がる。そのような衝動の性差が、ヤギやハムスターなどに対する行動パターンの性差を生んでいるのではないか、と私は思うわけである。

 動物を見たとき、男性はそれを「獲物」だととらえ、女性はそれを「子ども」だととらえる。だから動物への接し方には男女の間に違いがある、というわけだ。
 なるほど。
 私はこれを読んで、男性飼育者と女性飼育者がすれ違うのはもう致し方のないことなのだな、と諦念を抱いた。
 なぜなら、この仮説が正しいとするならば、男性の爬虫類飼育者と女性の爬虫類飼育者とは、そもそも、「やっていることが違う」ことになるからだ。
 仮説に従えば、爬虫類を相手にして、男性は狩りをしており、女性は子育てをしている、ということになる。同じ「飼育」という言葉でくくられていても、実態はまるで違うのだ。
 ならば、すれ違いが生まれるのは当然ではないか。
 今後自分が、そのようなすれ違いでストレスを感じそうになったときには、私はこの文章を思い出すようにしようと思っている。「進化のせいか」と思えば苛立ちも軽減されると思うからである。
 みなさまも、心に留めておかれたらよろしいかと思う。
 あなたが我が子と思っているトカゲにちゃんづけで話しかけるのをダンナが白い目で見てるのは、そのトカゲのことを獲物だと思っているからなのである。
 そういうふうに進化したから。
 ……ん? 対立が悪化しそうかな?

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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