コオロギの後ろ足を折った方がいい理由
2016/04/16
コオロギは、爬虫類の餌としてもっともよく用いられている昆虫である。
飼育が簡単で、栄養バランスも優れていることから、広く餌として用いられている。餌用に販売されている種類は、1年中繁殖させることができるのでエサ切れに困ることもない。
登場以前は動物の餌用の昆虫なんて鳥の餌のミールワームしか売っていなかったから、コオロギは爬虫類飼育者たちに、福音として受け入れられた。
しかし、いざ餌としてたとえばトカゲモドキに与えてみると、この昆虫には餌としての大きな欠点があることもすぐにわかる。
発達した後足が特徴の直翅目に属するコオロギは、どんくさいトカゲモドキたちが餌にするには、いささか機動性が高すぎるのである。
私が見る限り、トカゲモドキたちは、コオロギの素早い動きに、ほとんど反応できていない。コオロギが、その脚力を活かして高速移動すると、「こいつ、いつの間に…」という感じでワンテンポ遅れて振り返る。そしていざ襲いかかっても、けっこうな頻度で空振りするのである。まるで悟空に翻弄されるナッパみたいに。ケージの中の限定された空間でなければ、とても捕らえられるようには思えない。
さらに、動きが非連続的で、ケージに投入された直後の興奮状態においては、静止、高速移動、静止、高速移動、を繰り返すからなおたちが悪い。トカゲモドキたちは、静止している物を餌として認識できないからだ。
目の前にいるのに、静止しているから認識できない。かと思ったら、目にも留まらぬ速さで背後に移動している。慌てて振り返ったら、また静止しているから認識できない。
どうにもその行動特性は、トカゲモドキの行動特性と相性が悪いのである。ひょっとしたらトカゲモドキたちは、野生下では直翅目なんてほとんど食べていないんじゃないかとさえ思う。
まあ、当然といえば当然だ。やつらは、直翅目は、見た目のバランスを犠牲にしてまで「逃げ」を極めた昆虫なのだから。捕食者にとっては捕りにくい相手でなければむしろおかしい。でなければなんのための進化だ、ということになってしまう。
その意味ではコオロギとは、餌に向かない昆虫のひとつであるのかもしれない。
それでも、その栄養価は捨てがたい。
だから、トカゲモドキたちにコオロギを与えるときには、場合によってはハンデを与えるわけである。
予め、コオロギの武器を、その長い後足を折ってしまうのだ。
そうすれば、動きが鈍くなり、トカゲモドキたちにとっても捕らえやすい餌となる。
我々は、数億年の進化の歴史に逆らって、トカゲに餌を与えている。
まったく手間のかかることである。