総選挙なんて見てる場合じゃなかった
2016/03/13
大きな過ちを犯してしまった。
ついさっきのことである。
ブログを毎日書いているにも関わらず家計簿を毎日つけるのが絶望的に苦手な私は、普段クレジットカードに依存した生活を送っている。カード決済ならば、カード会社が自動的に私の使用履歴を記録しておいてくれるからである。自分で家計簿をつけなくても、どれくらい支出しているか、カード会社のマイページで簡単に確認することができるので、おおまかな性格の人間にはとてもありがたいのだ。だから、買い物はなるべくカードで済ますようにしている。
そのため、私の財布の中には、普段現金がほとんど入っていない。ほんとうはもしもの時に備えて、数万円程度は入れておくべきなのだろうが、なにしろ根が忘れっぽいので、ついつい現金を下ろすのを忘れてしまうのだ。
今日もそうだった。私は、財布の中にわずか500円の小銭しかないまま、帰り道のいくつものATMを素通りし、帰宅した。
そうして、夕食を食べながら、ぼんやりとAKB48の選抜総選挙を観ていた。
次回のシングル曲を歌うことのできる16位以上のメンバーの発表が始まり、ようやく「知っている顔」が画面に登場するようになって、どれどれ、そろそろ本腰を入れて視聴しようじゃないか、と思ったその時、インターフォンが鳴った。
我が家のインターフォンが鳴ることなどほとんどないので、たまにピンポーンと音がするととても驚く。私は、掃除機のスイッチを入れた瞬間の猫ぐらいなリアクションを思わず発動してから、モニターの方へ目を向けた。
しかし、そこに映っている人の姿が私に与えた衝撃の大きさは、インターフォンの音によるそれの比ではなかった。確認した瞬間、今度は、「表面が冷めているからと人のごはんに食いついたら中がまだ熱かった」時の猫ぐらいなリアクションを私は発動することになった。わかりやすく言えば、より大げさにぶっとんだということだ。
外に立っていたのは、宅急便のおじさんだった。
脳裏によみがえる数日前の記憶。
たしかに私は、数日前に、某ショップから通販でトカゲモドキに与える冷凍コオロギを買った。価格は送料込みで3000円ほどだった。
おじさんは、それを届けに来たに違いない。
そのことが私を、恐慌に近い状態に陥れた。
やばい。やばいやばいやばいやばいやばい。
どうやら私は思い違いをしていたようなのだ。私はてっきり、明日届けてもらうように指定したつもりでいた。実は指定日は今日だったのだ。
もちろん、それだけならば別に大げさに慌てたりなんかしない。問題は、私の指定した支払い方法にあった。
私が恐る恐るインターフォンに出ると、おじさんは言った。
「こんばんは。代引のお荷物が届いています」
代引!!!!
そうなのだ。こともあろうに私は支払い方法として、代引を指定していたのだ。
ここで、少し前の文章を読み返していただきたい。
「財布の中にわずか500円の小銭しかないまま」と私は書いた。
私が恐慌をきたした理由が、おわかりになるだろう。
お金が足りない!!!
私は、明日荷物が届くつもりで、今日はまったく現金を用意していなかったのだ。
これで慌てずにいられる人間など、この世に存在するだろうか。
私はもう吐きそうだった。
胃に穴が開きそうな心持ちで、玄関のドアを開けた。
カードが使えるようになっていないかな、という淡い期待を込めて。
しかし、もちろん、おじさんの差し出す伝票には、しっかりと、「現金扱い」のところに丸が付けられていた。
当たり前の話だ。ここでカードが使える設定ならば、購入手続きの段階でカード決済が選べているはずだからだ。代引を選ばざるを得なかったということは、カードは使えない、ということなのだ。
その時の私の頭の下げっぷりは、それはそれは記録的なものだった。事前に申請していればきっとギネスブックにだって認定されたことだろう。私は頭を、下げに下げた。
ごめんなさい。また明日、来て下さい。
私は、おじさんと目を合わせることができぬままそう言った。
おじさんは苦い顔をして、「気をつけてくださいね」と言い残して去っていった。
玄関のドアが閉まってからも、私は呆然としてその前に立ち尽くしていた。
ちょっとばかり死にたかった。
なにをぼんやりテレビなんて観ていたのだろうか。
その間に私がすべきだったことは、コンビニへ行って現金を下ろしてくることだったのだ。
知らない人がたくさんいるーとかわめくことじゃなかったのだ。
たいした失態を犯してしまった。
ほんとうにありえないことだ。
まったく。
総選挙なんて見てる場合じゃなかった。