爬虫類飼育者には敏捷性が必要だ。

      2016/03/18

 最近では、イグアナフードやフトアゴフードなど、爬虫類専用に作られた人工飼料が充実してきているが、昆虫食の爬虫類に与える餌の中では、今でも生き餌が幅を効かせている。
 しつこいようだがコオロギだ。
 爬虫類を扱っている専門店やホームセンターでは、たいてい餌用に生きたコオロギを販売している。
 爬虫類キーパーは、それらのコオロギを購入して、動物に与えることになる。
 以前、コオロギは動きが速くてトカゲモドキには捕まえるのが難しいという内容の文章を書いたが、コオロギの動きが速くて困るのはなにもトカゲモドキだけではない。
 我々人間もまた、コオロギの動きに翻弄される立場に置かれている。
 コオロギの動きは素早い。おまけに動き出しが早い。ゴキブリ同様長い触角でこちらの動きを察知しているのか、まるで天帝の目の持ち主であるかのように捕まえようと伸ばす指の間をすり抜けていく。どんくさい人間たちは、格の違いを目の当たりにしてただひれ伏すより他にない。
 さらに悪いことに、多くの場合、コオロギをストックするケージの中には、コオロギの捕獲を妨害するたくさんの障害物が設けられている。1匹あたりのスペースが少ないとすぐに共食いをはじめて数が減ってしまうため、限られたスペースでたくさんのコオロギを維持するために、飼育者はケージの中に、紙製の卵のパックだのくしゃくしゃにした新聞紙だのダンボールだのを放りこみ、ケージ内の表面積を増大させている。それらが、コオロギを捕まえようとするときには障害物としてはたらくのである。
 伸ばした指の間をすり抜け、ダンボールの陰に隠れるコオロギたち。障害物がなにもなければ、初手で捕り逃したとしてもそこからさらに手を伸ばしてコオロギを追いかけ捕まえることができるが、物陰に隠れられてはおしまいだ。もぐりこんだダンボールをひっくり返している間に、コオロギはさらに奥へ奥へと逃げこんでしまう。
 コオロギとの戦いは、人間にとって圧倒的に不利な状況で展開されるのである。
 私のように、小学生の頃ですら直翅目の捕獲を苦手としていた運動音痴にとっては、涙が滲みそうになるほどに大変だ。
 しかし、何年か前から、そのようなどんくさい人間(とトカゲモドキ)にとって福音とも呼べるような商品が売られるようになっている。
 冷凍コオロギである。
 コオロギを、生きたままではなく冷凍した状態で、提供する商品だ。
 これについては、様々なメリットが指摘されている。
 コオロギを行きたままストックする手間がかからない。
 コオロギが栄養失調に陥って、餌として満たすべき栄養価を失うことがない。
 共食いして数が減らない。
 成長してしまって与えたい動物が食べられない大きさになってしまうことがない。
 などなど。
 私はこれらのメリットに加えて、「(死んでるから)捕獲に四苦八苦しなくていい」ということを、声を大にして主張したいと思っている。
 なかなかコオロギを捕まえることのできない私のような人間にとっては、これほどありがたい商品はない。
 今日、はじめて試してみて、その扱いの楽さに私は感激した。
 これは、これは最高だ。
 私は、コオロギを冷凍して提供しよう、と最初に思いついた人物に、心の底から感謝したいと思っている。
 しかし、である。
 それにも関わらず、冷凍コオロギの使用には依然として問題が存在するのである。
 正確に言えば、冷凍コオロギを採用してもなお、トカゲの餌やりにはどんくささゆえの困難がつきまとう。
 それは、「トカゲよりも飼育者の方がどんくさい」という問題だ。
 少なくともトカゲモドキに餌を与えるときには、多くの場合、飼育者はピンセットで餌をつまんでトカゲモドキの前に差し出し、そこから直接食べさせるようにする。生き餌を与えるときでも同様である。生きたコオロギを野放しにすると床材の間に潜り込んだりして、動物が捕食できなくなってしまったりするからだ。ピンセットを使えば確実に餌を与えることができる。
 ピンセットでトカゲモドキの顔の前に餌を出し出す。トカゲモドキがそれに気がついて餌に食いつく。その瞬間にピンセットを餌から放して、トカゲモドキに餌を「パス」する。そんな流れで、我々はトカゲモドキに餌を与える。
 書いてしまうと簡単だが、なかなかどうして、これをスムーズに行うことは難しいのだ。
 なぜなら、動体視力や反射神経に劣る者には、ピンセットを餌から放すタイミングがうまくつかめないからである。
 トカゲモドキが餌に喰いつく前に放してしまって餌を床に落とし、トカゲモドキが見失ってしまうことや、トカゲモドキが食いついているのに放すのが遅れて、綱引き状態になってしまいトカゲモドキが諦めるようなことがまま発生する。
 トカゲモドキの「アタックの瞬間」が速すぎて認識できないせいで、絶妙のタイミングでなかなか放すことができないのである。
 今日、冷凍コオロギをトカゲモドキたちに与えた時も、私は見事に、パスミスを連発してしまった。神経質な個体だと、それだけのことで、ろくに食べてないのに「もう、今日はいらない」と臍を曲げてしまうことも起こりうる。結構大変なことである。
 だから、私は最終的に思ったのである。爬虫類飼育者はその飼育動物よりも敏捷でなければならない、と。
 飼育者が飼育動物よりも敏捷であれば、上記のようなことは起こらない。
 飼育者には、敏捷性が必要なのだ。
 今の私は、あるいは飼育者不適格なのかもしれない。
 なにしろどんくささが売りのトカゲモドキよりもどんくさいのだから。
 困ったものである。
 行政から指導が入ったらどうしよう。
 走る車のナンバーを、歩道から視認して判読するという訓練を、私も行ったほうがいいのかもしれないと思っている。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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