トカゲモドキの性別は温度で決まります

      2016/02/22

 ヒトの性別は、染色体によって決定されます。ヒトはXとYという2種類の性染色体を持っていて、これらの染色体の組み合わせによって男性になるか女性になるかが決まるのです。XXだと女性に、XYだと男性になります。学校で習ったとおりですね。
 学校の教科書では(あるいは授業では)、性決定のしくみとしてヒトと同じような染色体による方法しか扱わないことがほとんどなので、あるいは性というものはすべて染色体で決まるものだと思っている人もいるかもしれません。
 けれども自然界には、染色体によらないで性を決定するしくみを持つ生き物もいます。
 トカゲモドキはそのひとつです。
 トカゲモドキの場合、性別を決めるのは、卵の中で胚が成長する間の温度です。トカゲモドキの卵が正常に発生することのできる温度はおおよそ摂氏30度プラスマイナス数度というところですが、そのうち、低い温度と高い温度ではメスになる確率が高くなり、真ん中の温度ではオスになる確率が高くなります。産み落とされた段階ではまだ性別が決まっておらず、発育中の温度条件で事後的に性別が決まるのです。
 このような仕組みを、「温度性決定」と呼びます。
 カメやワニも、同様の方法で性別を決定する動物です。
 人為的に生まれてくる幼体の性別を左右することができるので、ブリーダーにとってはありがたい性質です。通常性成熟前の爬虫類の性別を見分けるのは困難ですが、温度性決定を行う種類であれば、温度管理を徹底することによって、あらかじめ雌雄を「決めておく」ことができるからです。繁殖用に手元に残した個体がぜんぶメスだった、というような悲劇はあまり起こりません(もちろん、生き物相手ではいつでも例外がつきものですが)。
 同様の理由から、時々陰謀説(?)に利用されることもあります。ヨーロッパから日本に輸入されるリクガメがオスばかりなのは、温度性決定を利用して、日本に送る分はオスしか生まれないようにしているからだ。そうしておけば、日本でブリーディングが行われてシェアが減ることを防げるからだ、というような。
 おもしろいのは、温度性決定のしくみは、様々なグループで独自に進化してきたものだと考えられることです。
 カメ、ワニ、トカゲモドキは、それぞれまったく分類群の異なる動物です。カメはカメ目、ワニはワニ目、トカゲモドキは有鱗目という異なるグループにそれぞれ属しています。しかも、有鱗目の動物(トカゲやヘビ)には、染色体によって性別が決まるものもたくさんいます。ですから、「温度性決定を行う共通祖先から、それぞれが進化してきた」わけではありません。それぞれが進化の過程で独自に、この方法を選択したのです。
 そのため、どんな温度条件の時にどちらの性別が生まれるかは、ものによって異なります。さきほどトカゲモドキの例を挙げましたが、ワニの仲間は低温でメス、高温でオスが生まれ、逆にアカウミガメの場合は、低温でオス、高温でメスが生まれるのです。同じカメでも、カミツキガメはトカゲモドキと同じパターンだったりします。
 ということは、この仕組みは、「たまたまそうなっちゃった」からではなくて、なにか適応的な理由があってそれぞれの動物に採用された可能性があります。それがなにか、ということは、まだ完全にはわかっていないのですが、どんな理由があるのだろうと考えるのはおもしろいですね。
 また、温度が性決定の「トリガー」を引くメカニズムにも未解明の部分はまだあります。一度トリガーが引かれた後の流れは、おそらく染色体によって性別が決まる動物と同様と思われるのですが、いちばん最初の「トリガー」が何であるかはまだばちっとは特定できていないようです。
 仕事で爬虫類やりたい人は、この辺を調べてみるのも面白いのかなぁ、と思ったりして。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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