脱走にはご注意を。

      2016/03/18

 動物を飼っている人が、気をつけなければならないことはたくさんありますが、そのなかでも重要なもののひとつが飼育動物の脱走です。
 脱走は、動物そのものにも、周辺の住民にも、生態系も悪影響を与える危険性があるからです。
 寒い冬の最中に、熱帯の爬虫類を逃がしてしまったら、多くの場合、彼らは凍えて死んでしまうことでしょう。
 まさかそんな動物がいるとは思わない周辺の住民が、不意の遭遇してしまったり、不用意に接近してしまうことによって、怪我をさせられることもないとはいえません(犬と同じように、どんな動物でも身の危険を感じれば咬むくらいのことはします)。
 ミドリガメやアライグマのように帰化動物となり、在来の生物に悪影響を与えることもあり得ます。動物そのものが大きな害を為さなくても、その動物が体内に持っていた病原体によって、ツボカビ病のような致命的な感染症が発生することも考えられます。
 不幸な結果を招きこそすれ、得るものなどあろうはずもない脱走には、細心の注意を払わねばなりません。
 かく言う私も、脱走はたびたび経験しています。
 ボールニシキヘビが逃げた話は、以前ブログに書きました。
 それ以外にも、いろいろな生き物に脱走されています。
 中学生の頃、親に隠して飼っていたミナミイボイモリが脱走し、リビングのエレクトーンの裏で母親に見つかったときは失神するかと思いました。干物にせずに済んで何よりでしたが。
 なかでもいちばん肝を冷やしたのが、グリーンイグアナの脱走でした。
 高校生の頃、実家で放し飼いにされていたグリーンイグアナが、屋外へ脱走したのです。
 冬の寒い日のことでした。
 換気のために、一部の部屋の窓を開けて網戸にしておいたところ、イグアナはその網戸を開けて、脱走しました。
 窓を開けている部屋にはイグアナが入らないようにドアを閉めていたはずだったのですが、我々の不注意から、開いたままになっていた時間ができてしまったのだろうと思います。
 ふと気がついてみると家の中のどこにもイグアナの姿はなく、開け放たれた網戸が状況を物語っていました。
 私は慌てて家を飛び出し、周辺を捜索しました。なにしろ外気温は10度程度です。早く見つけなければ、イグアナの命に関わります。それに、他所の人に先に目撃されたら間違いなくニュースになってしまうでしょう。一刻も早く探し出さなければなりませんでした。
 幸いなことに、イグアナは家の近くですぐに見つかりました。当時私たちは新築のマンションに住んでいたのですが、その非常階段の踊り場に、うずくまっていたのです。玄関のドアからは十数メートルしか離れていませんでした。
 すぐにイグアナが見つかったことにほっと胸を撫で下ろしましたが、それは危険な事態が発生していることを意味してもいました。脱走したにも関わらずそんなに近くでじっとしているということは、すでにイグアナは、外の寒さに体温を奪われ、動けなくなっているということにほかなりません。私はイグアナに駆け寄り、抱き上げました。
 イグアナの身体は、氷枕のように冷たくなっていました。目を閉じ、ぴくりとも動きません。
 危険な状態でした。
 私はイグアナを抱いて家に駆け戻り、幸いなことにお湯の張ってあった湯船にイグアナを漬けました。そのような急激な温度変化はよくないことなのかもしれませんが、慌てていて冷静な判断ができませんでした。
 湯船に浸してしばらくすると、イグアナをゆっくりと首を曲げ伸ばしする動作をみせ、次いで、震えながら手足を動かすようになりました。かろうじて、間に合ったようです。しかし、まだ安心はできません。私は湯船の中のイグアナをさすり続けました。
 イグアナが目を開き、はっきり意識を取り戻したのは、15分ほど経過した後でした。
 身体を拭いてやり、脱衣室の床に置くと、イグアナはぱたぱたと歩き、カーテンをよじ登って、お気に入りのカーテンレールの上に戻って行きました。
 翌日、いつも通り与えた小松菜をおいしそうに食べてくれたときの安堵は、忘れることができません。
 ただ、完全に元通り、というわけにはいかなかったのだろうと思います。
 脱走から半年ほど経った夏休みに、イグアナは死にました。前日までは、普通に餌を食べていたのですが。
 まだ5歳ほどの年齢で、飼育下の寿命と比べても、少し早い死期でした。
 解剖をしてもらったわけではないので死因はわかりませんが、真冬に脱走して、体力を消耗したことが、寿命を縮めてしまったのではないかと私は今でも考えています。
 このように脱走は、その時無事に解決した場合でさえ、様々な禍根を残すことがあります。
 くれぐれも、ご注意を。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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