やまももの下痢

      2016/02/05

 やまももが下痢をしている。
 症状が出始めたのは5日ほど前である。
 はじめのうちは、下痢というほどでもなかった。通常に比べて、やや軟便気味、といったところだ。そして食欲もあった。
 そのため、あまり深刻にはとらえていなかった。
 少し前から、暑い日中にクーラーをつける日があったし、食欲旺盛なので、ついつい欲しがるままに餌を与えていた。だから、お腹を冷やしてしまったか、過食によるものなのではないかと考えたのだ。
 しかし、ケージ内の温度を上げ、2日ほど絶食してみても、軟便は収まらなかった。
 これはおかしいな、と思った矢先に、とうとう完全な下痢便をしてしまった。
 後手。
 獣医としては恥ずべき事態である。
 慌てて検便をする。
 最悪の可能性として脳裏によぎったのはクリプトスポリジウムの感染である。
 この寄生虫には有効な治療法がなく、しかも感染力がべらぼうに強く、トカゲを宿主とするものは病原性も強い。その分、今までみんな元気だったのだから今更発生するか、とは思うが、もしそれによる下痢なのだとしたら、やまももの回復が絶望的であるばかりか、他の個体に伝染しているおそれも出てくる。悪くすれば全滅である。できれば除外したい。
 とはいえ、単純に検便をするだけでは、クリプトスポリジウムに感染しているか否かの診断は下せないことも多い。標的は、寄生虫の中でも極めて小さく、見つけにくいからだ。本当に安心したければ、蛍光染色とかELISAとかPCRとか、より高度な検査をした方がよい。が、それには時間もかかるし普通の動物病院には検査設備自体がない。まずは検便でがんばって探すのが第一である。
 ショ糖浮遊法を行う。砂糖を溶かして比重を高くした水に糞便を混濁し、寄生虫の卵や嚢子を浮かび上がらせて集める方法である。真水より海水の方が身体が浮きやすい、というのと同じ原理を利用している。糞便中に少量しか寄生虫卵が含まれていない場合でも、そこから虫卵だけを集めてくることができるので、直接糞便を顕微鏡で見るよりも効率がよい。寄生虫を探すのに一般的に行われている方法である。慣れた先生であれば直接便を見て見分けられるのかもしれないけれど、私にそこまでの経験値はない。
 祈りながら顕微鏡を覗く。
 果たして、クリプトスポリジウムは見つからなかった。
 前述の通り完全に安心はできないが、一旦は胸を撫で下ろす。
 ただ、代わりに、別の寄生虫の卵が見つかった。

蟯虫卵

やまももの糞から見つかった蟯虫卵

 蟯虫の卵である。
 もっとも、見つかったからそれがただちに原因であるとは言うことはできない。悪さはしていないがたまたまいただけ、ということだってある。別の原因で宿主の免疫力が低下したから増えてきた、ということもある。蟯虫はそれほど凶悪な寄生虫ではないし、わりと当たり前に見つかってしまう寄生虫のようである。CB個体であっても。
 ただ、とりあえずは手をつけられるところから対処していくしかない。検便の結果、他に異常は認められなかった。
 駆虫薬を持って帰り、全員に飲ませる。
 やまももには整腸剤を併用する。
 改善してくれれば、いいのだけれども。
1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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