ショップ巡りは危険

      2016/03/18

 県内のとある爬虫類ショップに行ってきた。
 餌や飼育器具は近所のホームセンターや通販で賄えるし、生体は今のところ8月にあるジャパンレプタイルズショー以外で買うつもりもないので、特に用があるわけではなかった。ただ、行ったことがないお店を見つけたので覗いてみよう、と思っただけである。
 店主は、愛想のいいお兄ちゃんであった。
 即売イベントに出品していた生体を売り場の棚に戻しながら、「またすぐ大阪っすよ。イベント多くて大変っす」と気さくに話しかけてくれた。
 私が子どもの頃には、店主が強面でむすっとしててちょっと話しかけにくいオーラを出している(話してみるといい人なのだが)ようなお店が時々あった。私が震える声でヨツユビリクガメを指さして、「こ、こ、これ下さい」と言ったら、「捕って食ったりしないから」と笑われた。そういうお店よりは、このように親しみやすい雰囲気を作っているお店の方が、はじめて訪れた者にとってはありがたい。
 けれども、よくしゃべる店主は、時として危険な存在でもある。なんとなれば、彼らはつまるところ商人だからだ。
「お客さんは、今何か飼ってるんですか?」
「ボール(ニシキヘビ)とヒョウモン(トカゲモドキ)とニシアフ(リカトカゲモドキ)とカメ」
「おお、まじっすか。うち、レオパ(ヒョウモントカゲモドキ)もボールもがっつりいますよ!!」
 そう言って、店主は私をそちらの棚へ誘導する。
「レオパは何がいるんすか?」
「ノーマルが1匹だけ」
「なるほど。マックスノーとか優性遺伝の品種だったらすぐ(その品種の)子どもとれますね。どうですか」
「んー、ヒョウモンはあんまり殖やすの考えてないんですよ」
「何をやろうとしてますか?」
「ニシアフはちょっと考えてますけど……」
「そっすかー。いいっすね。でも、ニシアフはクーリング(軽めの冬眠)とかしっかりさせないと発情しないっすからね〜。レオパで練習するのもありっすよ」
「ああ、なるほど」
 そして、足元の大きなダンボール箱を指差す店主。
「この箱の中は、イベントに持って行ってた生体です。まだイベント価格がついたままっすね。今だったらこの値段でいいっすよ。かなりお買い得です!!」
 箱の中には色とりどりのヒョウモントカゲモドキが入っている。
 「今だけ」とか「お買い得」という言葉に弱いのは何も女性だけではない。
 そう言われると、「買ってもいいかな」という気分についなってしまう。
 箱の中のトカゲモドキたちを凝視する私。
 ボールドストライプ14000円。うん。このテの柄はちょっと好きだ。
 アビシニアン(猫じゃない)20000円。虹彩が黒くてかわいい。
 ……いやいやいやいや。
 心の中で私は首を振る。
 無計画に増やすのは、いけません。
 勤務先の前に捨てられていた子猫を持って帰るのを我慢しているのは何のためですか。
 やまもも以外に今心配事を増やせないからでしょう。
 しかし、店主は次々と畳み掛けてくる。
「ボールは、何がいるんすか」
「ノーマルだけ」
「そうっすか。でも、このバンブルビーだったら、交配したらいろいろ出ますよ〜。これも今から戻すとこですが、今ならイベント価格っす」
「な、な、なるほど……」
 財布の中の諭吉さんの数をちらっと思い出す私。
 だからダメだってば。
 今後は増やすとしてもニシアフだけ。それも、よく考えて選んだ個体だけ。そう決めたでしょう。
 頭の中で、財布の紐をぎゅっと締め直す。
 それでも、店主のゆさぶりはやまない。
「フトアゴもいいっすよー。あとほら、このカーペットパイソンとか。ボールとまた違ったよさが……」
 必ずしもセールストークというわけではなく、本人が本気でいいと思っているから怒涛の語りになるわけだが、だからこそタチが悪い。本気の「好き」は感染力を持つからだ。
 途中で店主の知り合いらしい人物が入ってきて、世間話を始めたのは幸いだったと言えるだろう。でなければ、ヒョウモンの1匹くらい買わされてしまうところであった。トカゲモドキを殖やすならまずヒョウモンから、というのはブリーダーとしての本気のアドバイスでもあるはずだ。
 店主が話し込んでいる隙に、私は深呼吸をして、お店を後にした。
 これだから、ショップ巡りは怖いのである。
 のせられて、つい無計画な買い物をしてしまう可能性が常にある。
 もちろん、まともなお店であれば、オオトカゲやリクガメのように飼い主を選ぶ動物を安易に薦めたりしない。けれども、今日の私のように、すでにいろいろ飼っている人に対しては、「もう1匹どうすか?」というセールスが飛んでくる。前にも書いたように、犬や猫と違い、トカゲモドキやボールニシキヘビの飼育頭数が1頭増えたからといって、飼う手間はそれほど変わらないからだ。というかそもそも、お店に行くのは「買いたい」という意思表示であるというのが通常の前提だからだ。そりゃあセールスだってする。
 とはいえ、動物を衝動買いするのはやはりあまりよいことではない。
 だから、気を確かに持つ必要があるのである。
 服や靴なら、別に流されちゃってぜんぜんかまわないんだけれども。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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