狂った方が勝ちである

      2016/02/05

 新しいニシアフリカトカゲモドキを買った。
 レプタイルズショーにおいてではない。
 近所のホームセンターで、だ。
 ワイルドのノーマル。ストライプですらない普通のトカゲモドキ。
かしわ
 それを、つい買ってしまった。
 なんとなく、目が合ってしまったから。
「あ、これ下さい」
 レプタイルズショーで悩んだ6時間はなんだったんだい、というくらいの即決であった。
 ほとんど、「魔が差した」とでも言えるような事態だった。
 手元には、何の変哲もないトカゲモドキ。
 だったら、レプショーでキャラメルアルビノくらい買ってくればよかったんではないかい?
 当然のツッコミである。
 冷静であれば、誰しもそのように考えるはずだ。
 けれども、その何の変哲もないトカゲモドキを手にしたとき、私は冷静ではなかった。心は妙に高揚していた。
 いっそスキップでもしたいくらいに上機嫌であった。
「名前はなんにしようかなぁ。くぬぎと対でこなら、とか。でも語感がこだまとかぶるな。じゃあ……かしわ」
 なぜブナ科にこだわるのかまったく謎であるが、そんなことも気にならないくらいにるんるんだった。
 なぜならその時、おそらく私は、何かを「買った」というそのこと自体から愉悦を得ていたからだ。
 中身の問題ではなく、「買う」という行為そのものを、私の心は楽しんでいた。
 まるである種の女性のショッピングみたいに。
 愛護団体から十字砲火を食らいそうだが、今思い返せば、その時の精神状態はそうとしか言いようがなかった。
 分析を続ければ、やはり根っこは、レプタイルズショーでチキンになってしまったことにあるのだろう。
 レプタイルズショーのとき、私の心は、「生体を買う」ことを希求していた。品種云々ではなくニシアフはかわいいんだからもう1頭増やそう! そう望んでいた。
 一方で私の頭は、算盤を弾き続けていた。この価格とこのクオリティは釣り合うのか。今後繁殖を考えたとして、この個体を今導入しておくメリットはあるのか。そのメリットは出費に釣り合うのか。財政は大丈夫か。そんなことを考えていた。
 「買いたい!」と叫ぶ心を、「いや待て」と制止する頭。その葛藤が、私をして6時間も会場を右往左往せしめたわけだが、結果として、そのせめぎ合いには頭が勝ってしまった。私は、「買いたい!」という心を抑えこんで会場を後にすることになった。
 その時抑えこまれた心が、ここへ来て暴発したのだと思う。
 もともと私は、一度何かにハマると次から次へと買いあさってしまうタイプの人間である。小学生のとき、小遣いを注ぎ込んでハイパーヨーヨーを全種集めた。下手くそだったのに。そういう人種だ。しかし、ここのところは、「レプショーまでは買わない」という戒めを自分に課していた。「心」はその分たわめられ、それなりの反発力が蓄えられていたのだと思われる。
 それをレプショーで解放するはずが、「頭」の判断により解放されなかった。
 その結果、出口を失った大きな力は歯止めをはじき飛ばして炸裂した、というわけだ。
 なんだか他人事のようだが。
 ともあれ、ここで私はひとつのことを学んだ。
 衝動というのはそうやすやすと消滅するものではないぞ、ということである。
 抑えつけて、見えなくなったように思えても、実はちゃんと残っていて、隙をついて噴出するのだ。今回はいささか早すぎるにしても。
 ならば、結局のところ、それは然るべき時に、存分に暴れさせてやるべきものなのかもしれない。
 要するに、イベントでは躊躇なく狂った者が勝者なのだ。
 でもいいんだ。
 連れてきた子はかわいいから。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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