やっぱり餌は無駄になる

      2016/02/05

 トカゲモドキに餌を与えるとき、基本的には私は、トカゲモドキたちの食べるであろう数よりも多めに、冷凍コオロギを解凍して与えるようにしている。
 朝、餌皿に餌を補給しそのまま仕事に出かけるため、夜、彼らの就寝後まで採食量をチェックすることのできないリクガメとは異なり、帰宅後ゆっくり給餌できるトカゲモドキの場合には、はじめに解凍したコオロギの数が足りなくても、追加で解凍することができるにはできる。しかし、冷凍餌を解凍するためには時間がかかる。不精に手足が生えて歩いている私のような人間にとっては、それが面倒くさいのである。だから、いつも余らせるつもりで、少し多めに解凍していた。
 しかし、トカゲモドキの頭数が増えてきたら、その余分が、だんだん無視できない数になってきた。頭数が増えるほど、最終的に解凍するコオロギの数を決めるためのアルゴリズム(勘、ということだが)に入力しなければならない要素の数が増える。すると、誤差に誤差が重なって最終的に出力される値には大きなぶれが生じることになる。その誤差を考慮に入れると、けっこうな数のコオロギを余分に解かさねばならず、結果、多くの場合にはそれがまるっと無駄になってしまうわけだ。一度解凍した冷凍餌は基本的に再利用できず、余った分は捨てるしかない。
 これは問題である。
 月の夜ファームの冷凍餌は貴重だ。あそこの餌は、ぼーっとしているとすぐに欠品する。マウスなど、もう半年もこのメーカーからは買えていない。コオロギだってしばしば売り切れている。大事に使わなければいけない。
 そこで私は、この問題を解決するための方法を考えた。
 思いついたのは、冷凍コオロギと活コオロギを併用する方法だった。
 冷凍コオロギを、予想ぎりぎりか、敢えて予想より少なめに解凍する。その上で、足りなかった分は活コオロギで埋め合わせるのである。つまり、ベースの餌として冷凍コオロギを与えた上で、採食量の微妙な変動には再利用可能な活コオロギで対応する、というわけだ。
 冷凍餌があるのに活コオロギをキープしなければいけない、という手間はあるものの、この方法ならば、冷凍餌を無駄にすることはない。ベースの餌はあくまで冷凍コオロギであり、活コオロギは埋め合わせとして少数キープしていればいいのだから、トカゲモドキの頭数がよほどブリーダー的(=天文学的)に増えない限りは、コオロギの世話に忙殺されることもない。過密になってコオロギが共食いしてロスが出ることもない。これなら餌の無駄を最小限に抑えることができる。
 なんて画期的な方法だろう。
 この方法を思いついたとき、私は自らの頭の良さを褒め讃えた。原子力をベース電源として、変動分を水力発電で調節していたかつての電力政策みたいな効率の良さではないか。餌の無駄を抑えるのに、これ以上の方法があるだろうか。私は天才だ!
 私はしばらく、そうやって浮かれていた。
 問題点に気づいたのは数日前のことだ。
 いつものように、冷凍餌の給餌後に不足した分を補おうと活コオロギのケースを開けた私は固まった。
 ケースの中の「異変」に気づいたからだ。
 コオロギが、みんな成虫になっている!
 うちのトカゲモドキたちのお口のサイズに合わせて買ってきたMサイズのコオロギたちが、いつの間にか軒並み、羽の生えた大きな成虫へと育っていたのだった。
 こ、これじゃあ、くぬぎ以外大きすぎて食べられないじゃないか!!
 このときはじめて、私は自分が愚かだったことを知ったのだ。
 埋め合わせとして用いる活コオロギは、その役割上、一度にそれほど消費されるわけではない。だから、どうしても、食べられずに長く残るコオロギが出てくる。と、自然の摂理としてそのコオロギは、どんどん成長してしまう。当然の話だ。埋め合わせとしての微々たる消費では、コオロギの成長スピードに追いつけるわけがなかったのだ。
 私は、「活コオロギは成長する」というその当然のことを、うっかり失念してしまっていた。失念したまま、「活コオロギが足りなくならないように」と多めの数をキープしていた。
 なんのことはない、「冷凍コオロギの無駄」を、「活コオロギの無駄」に先送りしただけだったのである。
 馬鹿者である。
 最終的に、20匹の成虫という壮大な無駄を築いて、私の計画はメルトダウンした。
 餌は、無駄になる。これはもうどうしようもないこととして我々は受け入れなければならない。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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