肉食系女子。

      2016/03/18

 うちのやまももの食い意地は凄まじい。
 いつも他の個体の倍くらいのコオロギをぺろりと平らげるのみならず、隣接するケージに個体に餌を与えていると、わざわざシェルターから出てきて、ケージ越しにこちらの様子をじっと眺めていたりする。
 隣接どころか、下の棚の個体に餌を与えているのに気がつき、上からこちらをじっと見下ろしていたことさえある。
 お腹いっぱいになったとき、他の個体は、「ん〜、いらない〜」という感じで私の差し出すコオロギから顔を背けるのだが、やまももに限っては、今にも飛びかかりそうな前のめりでコオロギを凝視し続ける。もう食べられないくせに。
 食べ物に対する執着が驚くほど強いのである。
 今日もやまももは、ケージ越しに、隣のぶなに私が給餌する様子をじっと眺めていた。盗れるわけないのに、隙あらば、そのピンセットからコオロギを奪いとらんと企みながら。
 ぶなは、今のところあまりがっつきを見せる個体ではない。エンジンがかかるまでは、コオロギの頭をもいで体液を舐めさせてはじめて、「あ……食べ物」という感じではむっと食いつくような食べ方をする。だから1匹を食べさせるのに少し時間がかかる。その間、ピンセットによってコオロギは、ぶなの鼻先に固定されることになる。
 と、隣で見ているやまももにはそれがたまらない。
 それっ! それわたしにちょーだいっ!!
 てな具合に、ケージのアクリル板を破らん勢いでかりかりとひっかきだす。
「待ってなさい。後であんたにもあげるから」
 私はやまももに言うが、もちろん、トカゲモドキは人の言うことなど聞く耳も理解する脳味噌も持っていない。
 食べるっ! 食べるったら食べる!!
 とっとと食べないんだったらわたしにちょーだいよぉ。
 落ち着かない様子でケージの中を右往左往するばかりである。
 まったく。
 私は苦笑いを禁じえない。
 とはいえ、馬鹿な子ほどかわいいとはよく言ったもので、そのように振舞うやまももを、他の個体に比べて、私は贔屓せずにはおれないのである。
 下痢をして、食欲が廃絶したときの心労もあるものだから。
 だから今日のその振る舞いも、「やまもものかわいい振る舞い」として、脳裏に記憶されるはずだった。いつもの餌の時間と同じように。
 ところが、である。
 今日のやまももは、それだけでは留まらなかった。
 ぶなの給餌を終え、ケージの蓋を閉めた後も、やまももは、ぶなのケージをじっと覗き込んでいた。
「もうそこには餌、ないよ」
 でも、やまももはいっこうにケージの壁際から離れようとしなかった。食事を終えてシェルターにもどって行くぶなを見ているのである。
 いつもと様子が違うぞ、と思った瞬間、それは起こった。
 ケージに戻るぶなの尻尾が、ちょうどアクリル板越しにやまももの正面に差し掛かった時、あろうことかやまももは、その尻尾に食いつこうとしたのだ。
 かつん。
 やまももは両者を隔てるアクリル板に突進し、けっこうな音を立てた。
 私は愕然とした。
 お前、コオロギじゃなくてぶなの尻尾を狙っていたのか……。
 それは、大変に恐ろしい事実であった。
 もし、2匹が壁で隔てられてなかったら、やまももはひょっとしたら、自切したぶなの尻尾をそのまま食っていたかもしれないのだ。もしやまももを、他の個体と複数飼育なんてしていたらもう。
 肉食系女子、という言葉が私の脳裏をよぎった。
 かわいいばかりではない。やまももには、そんな恐ろしい一面が秘められていたのだ。
 なんということ。
 今、私の中で、やまももを見る目が劇的に変わり始めている。信頼がぐらついている。小嶋陽菜がフライデーされたとしても起こらないくらいのぐらつきようである。
 どうしよう。
 とりあえず言えることは、特別な理由がなければ、こいつらは単独飼育した方がいい、ということである。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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