くぬぎ、大脱走す

      2016/02/05

 生き物は、しばしば、人間の予想を超えた振る舞いをすることがある。
 甲羅を押し付ける「圧力」で水槽のガラスを割るカメ。掃除機から逃げるために2mの高さまで垂直跳びをする猫。閉まっていたはずのタンスの引き出しの中に何故か潜んでいるニシキヘビ。彼らの発揮する「野生の力」は、都会育ちの人間の貧困な想像力など軽やかに蹴飛ばしていく。
 小さなトカゲモドキとて例外ではない。
 今日私は、彼らの持つ野生の力を目の当たりにした。
 トカゲモドキたちのメンテナンスをしていたときのことだ。
 くぬぎのケージの掃除をしている最中、私は納戸から新しいティッシュペーパーを出すために、ケージの蓋を開けたままにしてその場を離れた。短時間だし、トカゲモドキは立体行動がそんなに得意ではないから、大丈夫だろうと判断したのだ。
 しかし、戻ってきたときには、こんな状態になってしまっていた。
くぬぎ脱走1
 なんとくぬぎが、ケージの縁に立っていた。
 写真に写っている、サプリメントの入った器以外は外に出していたから、ほとんど自分の腕力だけで、自分の頭胴長と同じくらいの壁をよじ登ったようだ。
 地表性ヤモリだからとタカをくくっていたが、くぬぎにも、わずか十数秒でこれを成し遂げるだけの膂力が備わっていたのである。
 私は判断の甘さを反省する以上に、驚かざるをえなかった。
 しかし、さらに驚くべきは、この後、くぬぎがたどった逃走経路だった。
 予想外の膂力を見せつけられた私は、彼がここからどうするのだろうと興味を持った。そこで、すぐにくぬぎを回収するのではなく、少し泳がせてみることにした。このまま、細いケージの縁を伝って、隣のかしわのケージにでも到達するのだろうか、と予想しながら。わずかな時間で足場のないところからケージの縁へ上がれるのだから、それくらいはできるに違いないと期待した。ところが、くぬぎのとった経路は、その予想すらも超えていた。
 次の写真を見て欲しい。
くぬぎ脱走2
 くぬぎはなんと、さらに壁を伝って、スチールラックの上の棚の方へよじ登って行ったのだ。
 途中で諦めるかと思いきやそんなことはなく、ぐっと上半身を乗り出し、数秒で、棚板の上にまでたどり着いた。
くぬぎ脱走3
 私はその模様を、唖然として見つめていた。
 人に飼われてはや数年の地表性ヤモリが、まさかここまでアクロバティックな逃走を図るとは……。野生動物は侮れないと、痛感させられた瞬間だった。
 彼らは、人の予想を超えた機動力を発揮する。
 脱走には、くれぐれも注意せねばならない。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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