ニシアフリカトカゲモドキの全身肥満細胞症について

      2016/02/22

 ニシアフリカトカゲモドキに発生した全身性肥満細胞症を報告する記事がJournal of Comparative Pathology(Volume 151, Issue 1)に掲載されていました。

 Systemic Mastocytosis in an African Fat-Tail Gecko (Hemitheconyx caudicinctus)

 2014年7月に刊行された号ですが、これが、ヤモリの仲間で肥満細胞症が認められたはじめてのケースだということです。
 肥満細胞とは免疫細胞のひとつで、Ⅰ型アレルギー反応、具体的に言えば、花粉症や蕁麻疹を引き起こす主体となる細胞です。それ以外にも、多彩な生理活性物質を持っており、様々な免疫応答に関わっていると考えられています。
 肥満細胞症は、この肥満細胞が異常に増殖する病気です。皮膚に症状が現れる皮膚型と、それ以外の部位に症状が現れる全身型に分けられます。肥満細胞がそこに「いるだけ」であれば大きな問題は起こりませんが、あまり過剰に蓄積すると臓器の機能不全や、骨髄の造血機能の異常を招き、結果として生命に関わる場合があります。なんらかの刺激によりたくさんの肥満細胞が一度にヒスタミンを放出することによってアナフィラキシーショックを引き起こし、重篤な状態になる危険もあります。肥満細胞によって骨髄が侵された場合には、骨髄球性白血病を発症します。
 報告されていたのは、3才のCB雌です。突如昏睡状態に陥り、2日後に死亡し、病理解剖が行われました。唾液腺のひとつである顎下腺に腫瘤が、肝臓、腎臓、骨格筋に色彩の異常な部分が認められ、これらの部位を病理組織学的に検査したところ、肥満細胞の増殖が判明したということです。
 ここからは私見です。
 主な病変が内蔵に現れており、哺乳類でたいてい認められる皮膚腫瘤も存在しなかったということですから、この個体については生前診断は難しかったかもしれません。
 肥満細胞症の治療はヒトと動物とでも微妙に異なりますけれど、全身型の場合には緩和療法・対症療法が基本となります。完治は期待できません。遺伝子異常による腫瘍性変化ならば、分子標的薬が功を奏することがありますが、現時点では爬虫類には使いにくいのではないかと思います。もし生前診断がついた場合には、抗ヒスタミン薬、H2ブロッカー、ステロイド等を用いて症状を抑えていくことになるでしょう。
 もっとも、爬虫類全体でもほとんど報告のない病気ですから、それほど気にすることはないかな、とは思います。一般のキーパーの方であれば、頭の片隅に「こんなんあったな」と留めておくくらいでよいのではないでしょうか。
 ただ、この病気に限らず、おかしいな、と思ったら下手に様子を見ずに、獣医師の診察を受けることをおすすめします。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

 - 爬虫類の学術