胚発生時の温度が雄ヒョウモントカゲモドキの行動に影響を与える。

      2016/02/22

 胚発生時の温度環境が、雄のヒョウモントカゲモドキの行動に影響を与えるという内容の論文を見つけました。

 Embryonic temperature shapes behavioural change following social experience in male leopard geckos, Eublepharis macularius

 ヒョウモントカゲモドキは、胚発生時の温度によって性別が決まることは昔から知られていました。胚発生に適した温度は26℃〜34℃くらいの間ですが、そのうち低温域と高温域では雌が、その中間の温度では雄が多く生まれてくることがわかっています。
 しかし、温度によって決まるのは、性別だけではないことが近年の研究ではわかってきました。同じ性別でも、胚発生時の温度条件の違いによって、行動に違いが生じるのです。
 たとえば、雄の生まれやすい条件(32.5℃)で発生した雄は、雌が生まれやすい条件(30℃)で発生した雄に比べて、より攻撃性が強く、逆に性的には比較的不活発であることが知られています。
 また、雌との接触の有無が、雄の行動に影響を与えることも知られています。雌との接触を経験した雄は、そうでない雄に比べて、その後の活動性やマーキングの頻度が増加するのです。
 この論文で著者らは、そのような雌との接触による雄の行動の変化が、胚発生時の温度環境に影響を受けるのかどうかを調べました。
 著者らはまず、30℃(Fbmales)と32.5℃(Mbmales)の条件でそれぞれ孵化させた2つの雄のグループを用意しました。
 それぞれのグループについて、まず、活発さとマーキング行動の有無を比較しました。この観察は、トカゲモドキたちを飼育しているケージから、まっさらなケージに個体を移して行われました(arena test-pre) 。その後、それぞれのグループをさらに、雌と接触する機会を与えるグループ(experienced)と与えないグループ(native)の2つに分け、各グループについて、活発さ、マーキングの有無、尻尾を震わせる行動(雌にアプローチする前に雄が行う行動のひとつ)の有無を観察しました。この観察は、飼育ケージ内で行われました(home cage test)。最後に、各グループについて、再びまっさらなケージに移したときの行動を記録しました(arena test-post)。
 その結果、Fbmales群内では、雌と接触のあったグループが接触のなかったグループに比べて活発さもマーキング頻度も尻尾を震わせる行動の頻度も増加したのに対し、Mbmales群内ではそのような差は認められないことがわかりました。雌と接触のあったグループのうち、home cage test中に1度でもマーキングをした個体の割合は、Fbmale群がMbmale群に比べて有意に高く、尻尾を震わせる行動を見せた個体の割合も、前者が後者に比べて高い傾向にあることがわかりました。
 以上のことから、低い温度条件で発生した雄は、高い温度条件で発生した雄に比べて、雌との接触による行動の変化が大きいことがわかりました。ただし、過去の観察では、高い温度条件で生まれた雄も、雌との接触によって行動が変化することが認められているため、この違いは、変化の現れる「早さ」の違いではないかと著者らは考えています。
 ヒョウモントカゲモドキは雄が排他的な縄張りを作る性質を持っていますが、攻撃性などの違いから、高い温度条件で生まれた雄は縄張りを作って域内の雌を独占しようとし、低い温度条件でうまれた雄は縄張りを作らずに(間男的に)他の雄の縄張りに侵入して配偶の機会を狙うという2つの戦略があるのではないか、と予想されてきました。雌と接触した時にFbmale群の方が行動の変化が早く現れる(手が早い?)という結果は、この仮説に合うものだと著者らは述べています。
 アマチュア飼育者としては、孵卵時の温度設定は「胚が死なない」ことだけ気をつけてアバウトに考えてしまいがちですけれども、それが、その後の個体の「生き様」にまで影響を与えるかもしれないと思うと、なんだかちょっと複雑な気分になりますね。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

 - 爬虫類の学術 ,