すごい! iZooで珍種ミミナシオオトカゲの繁殖に成功。

      2016/02/05

 2014年12月、体感型動物園iZooが、ミミナシオオトカゲ(Lanthanotus borneensis)の繁殖に成功しました。

 ミミナシオオトカゲは、ボルネオに生息する、1科1属1種の大変珍しいトカゲです。1878年に新種記載された後も、わずかな個体数しか発見されていません。詳しい生態は未だ謎に包まれており、「爬虫類界の聖杯」とさえ呼ばれています(ボルネオ島旅行記 幻のミミナシオオトカゲを求めて|上畑養魚グループ)。動物園での展示も他に例がなく、今のところ、世界中で飼育下の個体は、iZooでしか見ることができません。
 iZooは、そんな、生態もよくわからなかったトカゲの飼育に挑戦し、導入後たった1年で孵化までこぎつけました。まさに快挙と言えるでしょう。
 爬虫類ブロガーとしては、これを座視しているわけには行きません。
 そこで私、厚かましくも、iZooを訪ね白輪剛史園長にお話を伺って参りました。
 2014年9月17日に産卵された卵は、82日間かけて孵化し、今、展示室に置かれたインキュベーターの中で子トカゲがすくすくと育っています。

ミミナシオオトカゲの幼体

ミミナシオオトカゲの幼体

 そのインキュベーターの前で、お話を伺いました。
 分類上もユニークなミミナシオオトカゲですが、白輪園長によれば、繁殖に成功する以前から、様々な特殊な生態を目にすることができたようです。
 たとえば、餌の食べ方です。他のトカゲは、シナワニトカゲのような半水生種であっても、餌を飲み込むときに顔を空気中に出します。でないと、餌と一緒に水を飲み込んでしまい、十分に餌を食べる前に胃がいっぱいになってしまうからです。これは実はワニも同じで、水中で餌を獲るワニであっても、水の中で餌を飲み込むことはしません。ところが、ミミナシオオトカゲは、水の中で餌を飲み込むというのです。それで、平気な顔をしている。半水生のトカゲどころかワニにもできないことをやってのけるです。カメの仲間と同じように、一緒に飲み込んだ水を鼻などから放出するような仕組みを備えているのではないか、と白輪園長はおっしゃいました。
 そして、繁殖行動がはじまると、さらに変わった生態が明らかになってきました。
 私が伺ったのは以下の3つです。
 第一に、交尾時間がとても長いこと。
 繁殖に成功したペアが交尾した際、それは44時間くらい続いたのだそうです。YouTubeなどを見るとヒョウモントカゲモドキあたりの交尾を撮影した動画がたくさんアップされていますが、トカゲの交尾時間はたいていそれくらい。ほとんど一瞬で終わります。44時間というのはトカゲとしては例外的に長く、どちらかと言えばヘビのそれに近いものです。
 第二に、交尾から産卵までの期間も非常に長いこと。
 たいていの卵生のトカゲは、交尾後1ヶ月もすれば卵を産みます。ところが、ミミナシオオトカゲは、産卵までに百数十日を要したのだそうです。実は交尾後40日ほどで、お腹の中に卵ができているのが明らかにわかるようになっていたそうですが、それでもなかなか産まなかったとのこと。あまりにもお腹に卵を持っている期間が長いことと、他の半水生のトカゲには卵胎生(お腹の中を孵化させ、幼体を出産する)が多いことから、当初はミミナシオオトカゲも卵胎生なのではないか、と疑いさえしたそうです。
 第三に、卵の生育に適した温度条件がシビアなこと。
 iZooでは、今回、繁殖に成功したペアの雌が産卵をする前に、別の雌が持ち腹(施設に導入される前に交尾し、卵・子を持った状態になっていること)で産卵していました。その卵を、気温28℃で育てたところ、途中で卵がしぼんでしまい、孵化に至らなかったそうです。そこで、繁殖に成功したペアの卵、計6つを、3つずつ、26℃と27℃の2つの条件に分けて育てたところ、27℃で育てた卵のみ、82日で孵化に至ったとのこと。26℃で育てた卵のうち2つは死んでしまったため、残る1つを途中から27℃の条件に移したところ、その卵は無事に孵化したそうです。通常、トカゲの卵の発育に適した温度は28℃から30℃ちょっとくらいの間ですから、それに比べて求める温度が低いだけでなく、許容範囲も狭いことがわかります。「だから、気候変動の影響を受けやすいかもしれない」という懸念を、白輪園長は口にされていました。
 このように、飼育・飼育下での繁殖を通じて、これまで謎に包まれていたミミナシオオトカゲの実態は、少しずつ明らかになってきています。今回、繁殖が成功し、生年月日のきちんとわかる個体が得られたことで、成長速度や、性成熟までにかかる時間、寿命など、より多くの情報を手にするチャンスが生まれました。iZooでは、さらなる生態の解明に注力していきたいとのことです。
 ミミナシオオトカゲは、ヘビの祖先となった動物と近縁なのではないか、その形態を遺しているのではないか、という説も存在し、だからこそ注目されてきた部分もあります。とにかく発見された個体数が少なすぎるため、「わからない」というのが現状であるそうですが、飼育が軌道にのり、系統解析に十分な遺伝子サンプルを得られるようになれば、より詳しいことが分かるかも知れません。
 ミミナシオオトカゲの詳しい生態は、新種記載から100年以上もの間、謎に包まれてきました。それが、飼育下で次々と明らかになっていることは、動物園の存在意義を示すよい事例だと私は思います。iZooで得られた知見は、生息地の保全を考えるヒントを与えてくれることでしょう。「殖えた」という結果だけでなく、そこにいたるプロセスの中に、たくさんの「宝物」が埋まっているのです。その点で、今回の繁殖はやはり快挙だと私は思います。
 生まれた子トカゲたちが健康に成長してくれることを、願ってやみません。
1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

 - 爬虫類スポット探訪