サービス品質がショップ経営の鍵。――LITTLE EARTH社長 伊藤慎太郎さん

      2016/05/05

 静岡市に、デンドロパークという爬虫類ショップがある。
 ボールニシキヘビやヒョウモントカゲモドキを中心に、良質な個体を揃えたショップである。
 これまで、有名店を含めていくつもの爬虫類ショップに私は足を運んできたけれど、このお店は、その中でもお気に入りの場所のひとつである。
 私の中の「爬虫類ショップ」のイメージを覆した、洒落た店構えであるからだ。
 床に絨毯が敷かれ、一部にカフェスペースが設けられ、厳選された生体がスペースに余裕を持ってゆったりと陳列されている様子は、爬虫類ショップというよりは、衣類やアクセサリーのセレクトショップを思わせる。子どもの頃よく見かけた、倉庫みたいな埃っぽくて狭苦しい場所に雑然と生体が積み上げられているようなショップが「デフォルト」のイメージだった私に、デンドロパークは、ほとんど「カルチャーショック」とでも言うべき衝撃をもたらした。
 こんなショップがもっとたくさんあったらいいのに、と、デンドロパークを訪れた後に私は強く思った。
 こんなショップだったら、女の子も連れて来やすいよね、と予定もないのに考えた。
 名古屋レプタイルズワールドでお会いしたNCAの学生さんが語ってくれたことがあるけれど、爬虫類で食べて行きたい、と夢を描く若い人は少なくない。そういう人たちには、できればこんなお店をやってもらいたい、と私は思う。
 そこで、今回は、店の管理責任者である伊藤慎太郎さんに、お話を伺ってみることにした。

価格に見合うサービスを

 名古屋駅からあおなみ線に乗り、10分ほど揺られると名古屋競馬場前という駅につく。そこから15分ほど歩いたところに、伊藤さんの「拠点」である爬虫類ショップ「LITTLE EARTH」はある。
 そこは、デンドロパークに輪をかけて洗練されたショップだった。
 ショップは2階にあるのだが、まずそこへと続く階段がやすっぽいビニールではなく木張りである。スリッパに履き替えて入った店舗の床もやはり暗色の木張りで、落ち着いた雰囲気を醸し出している。壁際に配置された陳列棚には生体のために白色の蛍光灯が使われているが、店内全体は抑えられた暖色系の照明で、小洒落たバーのような風合いとなっている。その佇まいは、たとえば代官山蔦屋書店の一角にそのままはめ込んでもまったく違和感のないものだ。そこに、アザンアオジタやバナナスパイニーテールイグアナ、高品質なボールパイソンのモルフなど、美しい生体が並べられている。店内は掃除が行き届き、たくさんの生体がいるにも関わらず臭いはまったくない。生体はどれも健康的な外観で、状態の悪そうなものは1匹もいない。

LITTLE EARTH内装

シックな内装

「爬虫類の、“商品の力”だけで売れている状況を、変えなきゃいけないと思うんですよね」
 内装や店の雰囲気、衛生状態に気を配っていることについて、伊藤さんはそう語った。
「爬虫類って、昔はマニアが飼うものだったじゃないですか。そういう人たちは、店の状態がどんなでも、そこに欲しい生体がいたら買うんですよ。状態の悪い個体が、糞まみれで売られていても」
 名古さんも、もしどうしても欲しい生体が、そのお店にしかいなかったら、そこで買っちゃうでしょ、と尋ねられ、私は肯く。
 でも、今の時代はそうじゃない、と伊藤さんは続ける。
「爬虫類は、マニアだけが飼う動物じゃなくなってます。たとえば、家族を持ったら当たり前のように一軒家を建てて住むって時代じゃないですよね。ずっと賃貸マンションとかで、子育てもしていくって人たちが増えてます。そういう人たちが、狭い家でも飼えるペットの選択肢の1つに、爬虫類もなってきてる」
 確かに、私の周りでも、“かわいいから”ヒョウモントカゲモドキを飼い始めた、ツノガエルを飼い始めた、という人たちがいる。彼女たちは、どうしても爬虫類が飼いたくてそれらの動物を飼い始めたのではない。「かわいいペット」を探していたらたまさかそれに行き当たった、というだけだ。
「そういう人たちに何かを買ってもらうのであれば、商売としてちゃんとしないと、ダメだと思うんです」
 たとえば、と言って、伊藤さんが指差すのは、私が挨拶代わりに持参した菓子折りだ。
「こういうものを買うと、きちっと包装して、ちゃんとした小銭受けでお金を受け取って、品物を手渡ししてくれるわけじゃないですか。サービスがちゃんとしてる。っていうかそれが普通なんですよ。僕たちは、もっと高額なものを売ってるんだから、それに見合うだけのことをしないと、お客さんになってもらえない」
 その思いが、居心地のよい空間を作り、きちんと生体の状態を仕上げて売る、という姿勢に繋がっているのだ。
 その信念は、ショップのサイトからも窺い知ることができる。LITTLE EARTHのウェブサイトには、こんな文言が書かれている。

飼育相談など、多くのベビーを扱うトップブリーダーが完全サポート致しますのでご安心下さいませ。
また、生体を扱う者として「情」の通った商売をモットーとしております。
当ファームハッチベビーに限りますが不可抗力の事故、原因不明死、などベビーに起こりやすい死亡の場合においても微力ではございますが、ご相談に乗れるようなstyleを大切にしております。

「1年に1度、特別な時に出すか出さないかって価格帯のものを僕らは扱ってるわけだから、その自覚が必要だと思うんですよ。糞まみれになって、げそげそに痩せてて、それでこのヘビ30万ですって言っても買わないですよ。僕だったらその金でロレックス買った方がずっといい。30万出させるなら、それだけのサービスやケアを提供するべきです」 
 それは、目から鱗の落ちるお話だった。もちろん素晴らしいお店もたくさん存在するものの、たとえばMORGAN HOMMEで1万5千円のシャツを買うときと比べて、爬虫類ショップで1万5千円の生体を買うときに、その「体験の質」に格差を感じることはあって、でも、「そういうもんだよな」と私も思ってきたからだ。
 けれども、考えてみれば、それこそ、「商売としてまっとうなこと」だと思える。
「だから、若い人たちにも、そういうふうに、考えてやって欲しいな、と思いますね」
 最後に、伊藤さんはそう付け加えた。

独立独歩

 では、そんな伊藤さんは、どのような経緯で今の仕事をしているのだろうか。
「まあ、はじめは熱帯魚とかですよね。そっから爬虫類に手を出し始めて、2012年からかな? パンサーカメレオンのブリーディングを始めたんです」
 当時、パンサーカメレオンは、国内では偶発的に繁殖例があったものの本格的にブリーディングしている人は少なかった。けれども、ヨーロッパからはCB個体が入ってきているから、殖やせないわけじゃない、じゃあパンサーをやってみよう、ということで、ブリーディングを始めたのだそうである。国内に情報が少なかったため、facebookなどを活用して海外のブリーダーから情報を得ていたという。
「あいつら、産卵された卵が孵化するまでに6ヶ月かかるんですよね。なんでかって言うと、本来卵で越冬する生き物だからです。だから、うまく孵すには卵にクーリングをかけなきゃいけない。そのためのレシピとかも、海外の人から教えてもらいました」
 今は、国内に情報のない種でも、ネット使って海外から直接情報がとれる。その点では、若い世代はずっと有利になってるのではないか、と伊藤さんは言った。
 繁殖させた個体は、ショップに引き取ってもらうのではなく、自ら通信販売をしていたそうだ。
「間にショップを挟むんじゃなくて、自分で直接お客さんに見てもらった方が、正確な評価がもらえると思ったからです。直接売って、反応を直に見た方が、身になる」
 というのがその理由だ。
 その信念は今も生きていて、LITTLE EARTHでは、個人ブリーダーが殖やした個体を買い取らない方針をとっている。ブリーダーを目指す人から相談を受けた時には、自分で売れとアドバイスしているという。
 そうして、個人ブリーダーとしてキャリアをスタートさせた伊藤さんが、実店舗としてLITTLE EARTHを立ち上げるきっかけになったのは、翌2013年に改正された動物愛護法だ。改正により生体の対面販売が義務付けられ、通信販売は実質規制されたため、対面販売のための「場」が必要になったのだ。
 このような経緯の中で、伊藤さんは爬虫類の卸を行うデンドロパークとつながりを持つようになる。その結果、デンドロパークの店舗を任されるとともに、その仕入れのルートも利用させてもらえるようになり、ボールやヒョウモンなど幅広い生体を取り扱うようになっていき、現在に至っている。
「だから、他のショップで働いたこととか、ないんですよね」
 と、伊藤さんは言った。
 既存の爬虫類ショップで修行して、それから独立するもの、というイメージを私は持っていたから、これも意外なことだった。
「自分の感覚でやりたい、っていうのが、やっぱりありましたから」
 ショップなどの第一種動物取扱業の登録には動物取扱責任者を置くことが必要だが、これについても自ら要件となる資格を取得することで対応したそうだ(同一業種での半年以上の実務経験があれば、それが資格の代わりになるので、既存店で「修行」していれば資格取得は不要)。
 やってやる、という気概さえあれば、いきなり城を構えることもできる、そういう道もあるというのは、若い人にとっても有益な情報かもしれない。

コミュニティをつくりたい

 最後に、今後の展望について伺った。
「お客さん同士が、つながれるようにしていきたいですよね」
 マニアだけのものではなくなったとはいっても、爬虫類を飼うことは、依然ニッチな趣味ではある。実生活の中で同好の士を見つけることはそれほど簡単ではない。だから、お店がそういう場になったらいい、と伊藤さんは考えている。
「だから、こうやって、喋れるようにカウンターとスツール置いて。今でもみんなだべって行ってます。椅子足りないから、床に座るやつとかもいて」
 そういうふうにしてコミュニティができあがっていくことを促進したいし、盛り上げたいという。
「まあ、これは僕の性格の問題かもしれないですけど、1人でやっててもつまんないって思うんですよね。みんなと喋って、“あれどうだった?”とかやりたい。話をしたいんですよ」
 デンドロパークの方にカフェスペースを設けたのも、そのような理由によるのだろう。
 生き物なんてそう頻繁に買えるものではない。けれど、買わなくてもいろんな生体を見たり、爬虫類の話をしたい、という人はいるだろう。そういうニーズを満たしていくのが大事だし、市場としてもそちらの方により大きなものがあるのではないか、と伊藤さんは言う。
「だから、今けっこうできてるじゃないですか、爬虫類カフェとか。ああいうのすごいいいなって思います」
 そして、若い人にはそういうことにもチャレンジしてほしい、と言う。
「で、どうせだったら、勇気を出して大規模にやって欲しい。ちっちゃくやっても、多分、僕らみたいな人の目にしかとまらないから。そうじゃなくて、あの、横浜の、亜熱帯茶館さんくらいどーんとやってくれたら、一般の人の目にもとまりますしね」
 確かに、と私は思う。亜熱帯茶館さんは開店当初一般紙やテレビにも取り上げられ、爬虫類好き以外の人からも大きな注目を集めていた。東京スネークセンターも然りだ。
「名古屋なんか、コメダコーヒーとか、喫茶店の文化があるから、やってみたらおもしろいと思うのに」
 今は首都圏ばっかりですもんね、と言ってみると、伊藤さんはそんな風に返してくれた。
 名古屋でやってくれたら生体提供もする、ということだから、我こそはという人は挑戦してみるといいかもしれない。

終わりに

 はじめて訪れたLITTLE EARTHは、今まででいちばん、居心地のよい爬虫類ショップだった。できたばかりのショップだけれど、このようなお店が、いつまでもあり続けて欲しい、と思わせてくれた。同時に、同じように良質な体験を提供するショップが、津々浦々にできてくれたら素敵だともあらためて思った。だから、伊藤さんの活躍には今後も期待していきたいし、触発された若い人が、既存の枠組みから抜けだして、新しいことに挑戦していってくれることにも期待したい。
 もし、ショップ経営を将来の夢としている若い人がいるのなら、ぜひ、LITTLE EARTHを、伊藤慎太郎さんを訪ねてみて欲しいと思う。きっと勉強になるはずである。

パンサーカメレオンベビー

パンサーカメレオンベビー

アザンアオジタトカゲ

アザンアオジタトカゲ

バナナスパイニーテールイグアナ

バナナスパイニーテールイグアナ

カメレオン パンサーカメレオン・蛇 (ヘビ) 卸・販売はリトルアース【Little Earth】

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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