爬虫類やりたきゃ大学に行け。――あーるず店長坂倉宏幸さん

      2016/02/05

 錦糸町駅からほど近いところにある爬虫類ショップ「あーるず」にお邪魔してきた。
 高校生くらいの頃、今の場所に移転する前に1度訪ねたことがあって、綺麗なショップだなということと、店長さんがいい人、ということが印象に残っていた(他のショップの方が悪い人、というわけではないけど)のだが、その後爬虫類から離れていたこともあって訪ねる機会がなかった。ニシアフ熱にかかってから、「ああ、そういえば」と思い出したので、今日、久しぶりに足を運ぶことにしたのである。
 実を言えば、LITTLE EARTHさんを訪ねたときのようなインタビューができればいいなと、私は事前に店長の坂倉宏幸さん宛てにメールを送っていた。けれども返信がなかったため(パソコンの調子が悪くて返せなかった、ということが訪ねてみてわかった)、不躾なことをして怒らせてしまったのではないか、と思い、今日はお詫びとご挨拶に伺うつもりだった。
 ところが、私がそう切りだすと、アポをとったわけでもないにも関わらず、なんと坂倉さんは接客の合間を見ながらではあるけれども、お話を聞かせてくださったのである。いい人!!
 そのときiPhoneのボイスメモ以外にインタビュー道具を持っていなかった、というところが私の取材者としての未熟さの表れなのだけれども、お時間を割いて下さったことに感謝するとともに、伺った内容を書いてみたいと思う。
 私が、大学研究室や爬虫類ショップ、爬虫類カフェを訪ねてエントリーを書いている目的のひとつは、爬虫類に関わる仕事に就きたいと考えている若い人たちに、キャリア設計の参考になるような情報を伝えることである。今現役で働いている人たちがどんな経緯でその仕事に就き、どんな風にその仕事と向き合っているのかを知れば、自分がどのようにこれから動けばいいのか、イメージがしやすくなるのではないか。そういう思いから、いろんなところにお邪魔させて頂いている。爬虫類に関してはエンドユーザーに過ぎない私がこの趣味を続けるためには、業界の未来を担う人たちが一定数確保されていることが不可欠だと考えているからだ。だからそういう人たちのお手伝いが、微力ながらできればいいな、と思っている。
 お話を伺うに先立ってそういうことを伝えたところ、坂倉さんはしばらく押し黙った後に、こう言った。
「じゃあさ、たとえばこの店の半分くらいのスペースの店を開くとして、どのくらいの費用がかかると思う?」
 私はぐっと詰まる。動物病院を開業するために必要な資金ならばわかるけれども、爬虫類ショップを開くのにどれくらいかかるのかは、恥ずかしいことにさっぱり見当がつかなかったからだ。調べようと思えばいくらでも調べられただろうに。
 わかりません、と正直に言うと、坂倉さんは「1000万くらいかな」と教えてくれた。そしてこう続けた。
「たとえば爬虫類ショップで何年か働いて、貯まる金額じゃないよね」
 確かに、と私は頷く。
「だからさ、もし、爬虫類やりたい、って思うなら、ちゃんとした大学に行け、って思うんだよ」
 開店資金を貯めるためには、それなりの収入がなければならない。それだけの職に就かなくてはいけない。一方で不景気が続き、就職市場は求職者にとって厳しい状況が続いている。学歴で言うならば、MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)でも新卒採用が厳しい、なんてことが言われる。だから、少なくともそれ以上の大学に行って、それなりの企業なりに入り込まなければ、開店資金を貯めるだけの収入を確保するのは難しいのではないか、というわけだ。
「でなければ、高校からもうがむしゃらに働いてお金を作るかだけど」
 いずれにせよ、爬虫類が好きだから爬虫類だけやって、っていうのは厳しいのではと、坂倉さんは言うのだった。資質にもよるけれども、という留保を残しつつも。
 坂倉さん自身、もとは文具を扱う企業に勤めたのち、ご実家の文具店の経営に関わり、そうして蓄えた貯金と、得た信用で「あーるず」の開店資金を調達したそうである。開店直後の赤字続きの時でも、そういった別事業での収入があったからやってこれたという。
「今の店舗に映るときも、内装だけで700万とかかかってるからね……」
 夢のない話のようだけれども、やっぱりお金が大事なのだ。
「あとは、経験という意味でも、他の仕事をしてみることは大事じゃないかな」
 とも、坂倉さんは言った。「この仕事は要するに接客だから、それこそ営業のスキルみたいなものがなきゃいけない。そういうのを一般企業で身につけてくる方がいい」
 目から鱗の考えである。「ある仕事」に必要なスキルを、「その仕事」自体ではなく「別の仕事」によって身につけた方がいいというわけなのだから。でも、確かにその通りかもしれない、と思う。リクルート出身者がショップを始めたら目を見張るような営業戦略を打ってきそうだし、坂倉さんが「あーるず」の経営を軌道に乗せているのも、企業やご実家での経験があったからこそなのだろうから(突然押しかけてきた私のような者に対してもにこやかに対応する、というのもそのひとつかもしれない)。
 お話を徴する限り、たとえば爬虫類の仕事に就きたいからと専門学校に行って、なんとなくショップに就職するような進み方では先が見えにくいのだろうな、と思われた。爬虫類は好きだけど勉強は嫌いだから受験はしない、というような逃げではなくて、爬虫類が好きだからこそ、それを仕事にするために嫌いな勉強にも打ち込んでやる、というような攻めの姿勢が求められるのだろう。営業職は就活でもあまり人気がなかったりするけれども、敢えてそこにつっこんでいくことも必要なのだろう。
 では、営業スキルは必要として、他に身に着けておくべきスキルはなにか、ということを訪ねてみたところ、即答で「体力」というお言葉が返ってきた。
「休みなんかないからね、この仕事。風邪ひいても1日で治す。具合悪いなと思ったら栄養ドリンク飲みながら仕事して、次の日には治す。それくらいの体力はつけないと」
 そういう坂倉さんは、雨の日以外は毎朝5時に起きてランニングと筋トレをしているのだそうである。
 爬虫類を仕事にしたい、と考えるみなさんは、ぜひとも勉強と筋トレに励んでいただければ、と思う。

あーるズ

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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