買わない買わない詐欺

      2016/03/18

 毎年、春から秋にかけて、全国各地で爬虫両生類の展示即売イベントが開催される。
 各地の爬虫類ショップや飼育器具メーカー、ブリーダーなどが一堂に会し、自慢の生体や飼育器具、爬虫類をモチーフにしたグッズなどを展示・販売するイベントである。
 コミックマーケットの爬虫類版みたいなものといえば、一部の人にはわかりやすいかもしれない。世間に散らばって息を潜めている爬虫類愛好家たちの貴重な交流の場になっているところも、そのテのイベントにちょっと似ている。
 ここ数年で、開催されるイベントの数はぐっと増えた。東京、池袋で開催される東京レプタイルズワールドや、大阪で開催されるレプタイルズフィーバー、福岡で開催される九州レプタイルフェスタ……。インターネットで調べてみると、開催場所、主催者の異なる様々なイベントが存在していることがわかる。夏の間は、毎月どこかでイベントが開催されているような状態だ。
 そして、開催場所の近くに住んでいる爬虫類愛好家は、そのイベントに出かけることを年に1度の恒例行事としていることが多い。
 それは、年に1度、飼育動物の数が増えることを意味している。
 コミケに行って、何も買わないで買える人間は多くはあるまい。それでは、なんのために熱中症にかかるリスクを負ってまでそこに行ったのか、ということになる。同じように、爬虫類イベントに出かける者のほとんどは、「そこで、なにか買う」ということを念頭に置いて会場に足を運んでいる。そのために1年間貯金をし、ぐるナイにでも出演するのかという金額を財布に詰めて来場する者も少なくはない。
 よしんば、そうでない者がいたとしても、一度会場に足を踏み入れれば、まあ、何かしらのものを買ってしまうことになる。
 なんとなれば、そこはお祭り騒ぎの非日常空間だからだ。
 会場では、はじめからたがの外れているような者たちや、そこで蕩尽するために1年間我慢をしてきた者たちが、思いのままに狂気を吐き出している。1日で100万使う者さえいると聞く。そんな異様な熱気、盛り上がりの中に身を置くと、“健常者”も狂気にあてられて、生体につけられた値段は一桁少なく見え、預金残高は一桁多く見えてくるという「病気」を発症してしまう。と、平時であればそんなものを買う余裕はない、と冷静な判断ができるものでも、ほいほいと買ってしまうことになる。運良く、会場内を無事に乗り切ったとしても、そこで見かけた生体の姿が頭から離れず、イベント終了後に、出展者の実店舗に足を運んで購入することになったりする(私のことだ)。
 かくして、イベントのたびに、扶養家族は増えていく。
 そのような狂気に身を委ねることを楽しむ場所、それが爬虫類イベントであると言っても過言ではない。
 だから、もしあなたの家族や、恋人が爬虫類愛好家である場合には、はじめから、その人の言葉は一切信用しないことをおすすめする。
「見てくるだけだから。買わないから」
 家を出る前にその人が口にするその言葉に、質量はない。まったくない。
 いくら買わないと口で言っていたって、行けば結局買ってくるのだ。
 家を出るとき、「今回は買わない」という言葉を発言者本人が信じていたとしても、例外ではない。
 先のジャパンレプタイルズショーの前日、私の勤め先の先輩は、「買ってしまわないように自己暗示をかけている」と私にLINEを送ってきた。でも、次の日届いたのは、入場30分で、新たな個体を購入したというLINEだった。要するにそういうことなのである。
 行ったら最後、手ぶらでは帰ってこないものだと、周囲の人間は諦めておいた方がいい。
 あらかじめ、その覚悟でいることが、喧嘩にならない最良の方法である。
 それが嫌なら、はじめから会場へ行けないように、監禁しておくほかないであろう。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

 - 爬虫類コラム