イベントに生体は連れて行かない

      2016/02/05

 東京レプタイルズワールドやジャパンレプタイルズショーなどのイベントに足を運ぶと、自分で飼育している生体を連れて会場内を歩いている人の姿を見かけることがあります。
 胸や肩にフトアゴヒゲトカゲを掴まらせて自慢気にしている姿を見て、「あれ、うちの子でもやってみたい」と思う人もいらっしゃるかもしれません。
 しかし、イベント会場に生体を連れて行くことに、私は反対です。
 メリットに対して、リスクが大きすぎるからです。
 会場に生体を連れて行けば、様々なリスクに直面することになります。
 第一に、生体の安全が脅かされる、というリスク。
 生体を屋外へ連れ出せば、リードが外れて脱走してしまうかもしれませんし、移動中にノーリードの犬や頭のおかしい人間から危害を加えられるかもしれません。移動中、あるいはイベント会場内で、感染症にかかってしまう恐れもあります。そもそも、移動自体が生体にとってはストレスです。生体の安全・健康を考えれば、無闇に外に連れ出すことは、得策とは言えません。
 第二に、生体が人に危害を加えてしまうというリスク。
 たとえ人馴れしていたとしても、相手は動物です。緊急時に何をするかはわかりません。突然差し出された手に驚いて咬みついてしまうことだって十分に考えられます。ニシアフリカトカゲモドキくらいの大きさでも、本気で咬み付かれれば怪我をすることは間違いないでしょう。サバンナモニタークラスであれば、かなり深い傷になるはずです。幼児の手に自分のモニターが咬みついて、障害を残してしまったら、とても責任を負いきれるものではありません。
 第三に、危害を与えなくとも、周囲に不快感を与えてしまうというリスク。
 自宅を一歩出たら、イベント会場に入るまでは公共の空間です。当然、爬虫類の苦手な人も大勢行き来しています。会場内でも、「ハリネズミが見たくてきたけどヘビは嫌い」という人がいないとも限りません。そんな中、周囲に見える形で生体を運べば、多くの人を嫌な気持ちにさせてしまうことになるでしょう。そんなこと、したくないですよね? それに、嫌な気持ちにさせられた人は、飼育者全体に対して反発するようになるかもしれません。そうなれば、飼育者全体が、いっそう肩身の狭い思いをしなければいけなくなります。たとえ1万人が集まるイベントであっても、潰すには数本の苦情の電話があれば十分です。迂闊に生体を人目に晒すことは、身内にも迷惑をかけるかもしれない行為なのです。
 このように様々なリスクがあっても、それを上回るだけのメリットがあれば、生体を会場に連れて行く意味はあるでしょう。しかし、残念ながら、会場に生体を連れて行くことに、メリットはほとんどありません。爬虫類は「外の空気」なんて吸わなくても生きていける生き物ですし、「お友達」という概念自体がないですから、「お友達に会えて嬉しい」ということもありません。「かわいい」「かっこいい」とちやほやされても、とくに嬉しくもないでしょう。少なくとも生体そのものにとっては、イベント会場に行かなくてはいけない理由は何ひとつないのです。
 あるいは、生体を連れて行くことで、飼育者同士のコミュニケーションが円滑になるのかもしれません。けれども、それは様々なリスクを負ってまで求めるほどのメリットではないように思います。
 そもそも、会場への生体の持ち込みを禁止しているイベントも多いですし、そういうことをしたくて爬虫類を飼う、というのならそれはやめたほうがよいでしょう。
 自分の生体が愛おしくて、どこにでも連れて歩きたい、という気持ちはわかります。けれども、それで生体に負担をかけてしまっては本末転倒です。また、周囲に無用な迷惑をかけないというのは、まっとうな市民として最低限の努めです。
 冷静になって、一線を引くことを、私は推奨します。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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