単純で助かる

      2016/02/23

 爬虫類を飼育する場合には、餌に栄養素を添加することが推奨されている。
 飼育下で与えることのできる餌の種類は、自然界で彼らが本来食べている餌の種類に比べて、バリエーションが限られてしまうことが多いからである。
 自然界に、単一の餌しか食べないという種はほとんどいない。たとえば昆虫食のトカゲであっても、たいていは、有害でもない限り、口に入る大きさのあらゆる昆虫を食べている。クモやワラジムシのような昆虫ではない節足動物だってメニューのうちだ。それを、冷凍コオロギだけで飼育しようとすれば、多かれ少なかれ、栄養学的に無理が出てくることが考えられる。だから、なんらかの方法で足りない(かもしれない)栄養素を補っておくのである。
 もちろん、爬虫類の栄養学は、犬猫ほどには発展していない。なにをどれくらい与えればいいのかはっきりしていない種も多い。しかし、経験的には、人工的に栄養素を補った方が成績がよいことははっきりとしている。宗教上の理由で禁止されていたりするのでなければ、餌には栄養素を添加してやった方がよい。宗教上の理由で禁止されているのであれば、飼育は諦めた方がよい。
 栄養素を補う方法は工夫次第で無限に存在すると思うけれど、よく使われるのは次の2つだ。
 ひとつは、ガットローディングという方法である。gutとは腸のこと。loadは「積載する」という意味だ。昆虫に栄養価の高いものを食わせて、それが腸内に残っている内に餌として与える。餌の昆虫の腸内に栄養素を積載しておき、間接的に生体に与えるのである。ミルワームを主食にして生体を育てているヒョウモントカゲモドキの海外ブリーダーなどが用いることが多い。
 もうひとつは、ダスティングという方法である。dustは「振りかける」という意味。粉末状のサプリメントを、餌にまぶして与える。一般の飼育者は、こちらを採用することが多いだろうか。
 どちらの方法が優れているのかは、一概には言えない。それぞれ一長一短がある。ガットローディングの方が、自然な栄養素の摂り方に近いように思われるけれども、生き餌にしか使えない。ダスティングはどんなタイプの餌にも使えて汎用性が高いけれども、逆に栄養過多になる恐れもある。どちらの方法を選ぶかは、飼育者それぞれの条件次第だ。もちろん、両方とも行う、という手もある。
 私は、餌に冷凍コオロギを使っている都合上、ダスティングのみを採用している。当たり前だけれど、死体に餌を食わせることはできないからだ。解凍した冷凍コオロギの水気を切ってカップに入れ、ミネラルとビタミンのサプリメントを振りかけて、がしゃがしゃっと振ってまんべんなくまぶして与えている。飼育頭数が少ない場合は、生き餌をストックするより冷凍餌を使ったほうが無駄が少ないので、(冷凍餌に餌付いているならば)こちらを採用することになるだろう。
 が、この方法には実はもうひとつ欠点がある。中にはサプリメントの味をどうしても受け入れてくれない個体がいるのである。
 うちの場合だと、かしわやにれはもうあからさまに嫌いである。両方とも、ピンセットでコオロギを鼻先に差し出すが早いか電光石火で飛びついてくるタイプであるにも関わらず(たぶん前世はヒョウモンだったんだろう)、ファーストタッチでサプリメントの味を感じた瞬間に、顔をしかめて「ぺっ」と吐き出してしまう。落とすのでなく、2cmくらい吹き飛ばすのである。で、「毒を盛られた」と言わんばかりに懸命に顔を洗う(舌で洗っているから、毒を盛られたのだとしたら意味ないけど)。それから20秒くらいは、餌に反応しなくなる。それくらい、嫌いである。
 餌全体が白くなるくらいにサプリメントが付着していると、まずそれは食べてくれない。
 同様の個体は、他にもきっといるはずだ。
 とはいえ、まったくサプリメントを与えないというわけにもいかない。だから、そういう個体に当たってしまった場合は、別の方法を考える必要がある。
 生き餌に戻してガットローディングするのでもいいけれど、もっと簡単な方法もある。
 たとえば私は、これが正式名称かどうかは知らないのだけれど、ディッピングと個人的に呼ぶ方法を使っている。
 なんのことはない、浅い皿にサプリメントの粉を出して、そこにちょんとコオロギをつけて、片面だけに粉を付着させて与えているのである。
 それで、サプリメントのついた面を上にして与えると、2匹ともすんなりと食べる。
 舌にサプリメントがつかないので、味がわからないからだと思う。
 単純で助かる。
 

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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