トカゲモドキに餌を与える時の注意点

      2016/03/13

 ニシアフリカトカゲモドキは、意外に食にうるさい動物である。
 それぞれが頭の中に、「食べ物のイデア」みたいなものを抱えていて、そのイデアから逸脱するものはできれば食べ物として認めたくない、と考えている節がある。
 たとえば、普段、フタホシコオロギを食べているトカゲモドキは、ヨーロッパイエコオロギに変えただけで、食欲を失くしてしまうことがある。否、食欲はあるのだが、「コレジャナイ」とそっぽを向いてしまうのだ。フタホシコオロギを食べ続けてきたトカゲモドキにとって、食べ物とは「黒いもの」ということにでもなっているのだろう。その条件を満たさない白いイエコオロギを、彼らは食べ物として認めない。
 餌の種類ばかりではない。餌の動きにも、彼らは敏感だ。餌の種類がイデアに合致していても、動きがずれていると、餌として認識してくれないことがしばしばある。私は冷凍コオロギをピンセットで1匹ずつ与えるようにしているが、彼らが「餌の動きとして認識している動き」をきちんとなぞってやらないと、なかなか食いついてきてはくれなかったりする。たとえばむぎの場合なら、顔の正面から横方向に、顔のラインをなぞるように地べたを這わせてやらなければなければ、食べ物が来た、と認識してもらうことができない。毎回毎回、彼らの望む動きをピンセットで再現するのはけっこう疲れる作業だ。トカゲモドキたちが、「これは食べ物だろうか?」と思案している間、イデアから逸脱した動きをしてしまわないように集中してピンセットを操作しなければならないわけだから。
 困るのは、この「イデア」が、個体によってまちまちであるということだ。ある個体が抱いている「イデア」と別の個体が抱いている「イデア」は必ずしも同じものではない。ある個体の「食べ物の条件」は、別の個体のそれに当てはまるとは限らない。だから飼育者は、個体それぞれの「イデア」を、ひとつずつ把握する必要がある。ひとつのパターンを覚えれば終わり、ではないのだ。10匹いるなら10匹分の、「イデア」を覚えておかなくてはならない。
 彼らに餌を与えることは、それなりに神経を使う作業でもあるのである。
 しかも、そこまでやったとしても、なお、彼らは餌を食べないことがあるというのだから悩ましい。
 ニシアフリカトカゲモドキは、食に対してムラッ気を持つ動物でもある。尻尾に栄養を貯蔵しているという安心感がそうさせるのか、彼らはなんでもないときに、「今日は食べるのやめとこ」とあっさり食べることをやめたりする。1日おきに5匹のコオロギを食べていたかと思ったらふっと食欲をなくしてしまい、そのまま2週間くらい、何も食べずに過ごしてしまったりする。で、ある時期がやってくると、なにごともなかったかのようにふたたびわしわし食べだしたりする。まったく気まぐれに、食べたり食べなかったりするのだ。
 そのために、飼育者は、餌を食べない個体を前にして、時に頭を抱えることになる。食べない理由が、「ただの気まぐれ」であるのか、「イデアからの逸脱」であるのか、判断をつけることが難しいからだ。ただの気まぐれなら放っておいていい。でも、「イデアからの逸脱」であるのなら、修正を図らなくてはならない。どっちなんだ、と悩むことになる。
 やまももが餌を食べなかった昨日までの3週間、私はそのようにして悶々としていた。
 もちろん、ほとんどの場合、それほど神経質にならなくても、彼らは餌を食べてくれる。フタホシからイエコに変えたとしても、しばらくすればしぶしぶ食べてくれるようになるものだ。あるいはよほどお腹が空けば、それまで食べ物と認めなかったものを食べるようにもなる。だから、それほど怯える必要はない。
 が、たとえば彼らが「少し体調がすぐれないな」と感じているようなときなどには、その「イデア」が効いてくる。あなたにだってあるはずだ。病気とも言えないような微妙な体調の変動が。それがマイナス側に触れているような時には、「フタホシじゃなきゃやだもんね」と頑なになりもするだろう。そんなときには、彼らの認めるものを、彼らの認める動きで、提供してやらなければ食べてくれない。悩ましいというのは、餌を食べないのが、「そういうとき」だからなのか、「気まぐれ」だからなのか、見た目からでは判断がつかない、ということなのだ。
 あなたがニシアフリカトカゲモドキを飼ったなら、遅かれ早かれ、そのような事態に戸惑うときはやってくる。生き物を飼うとはそういうものだ。だからそういうこともあるよ、ということは、あらかじめ知っておいた方がよいように私は思う。知っておけば、いきなり直面して慌てることも避けられるから。
 と、いうわけで、こんな文章を書いている。
 最後にひとつだけ、そういうときに試しておくべきことを紹介しておこう。
 ニシアフリカトカゲモドキの場合、もし、1度餌を与えて食べなくても、10分くらい時間をおいて、もう1度与てみたほうがよい、と私は考えている。とりわけ、餌の時間に、すでに起きてケージの中を歩いていたのではなく、シェルターの中に引きこもって寝ていたような個体には、時間をおいて再挑戦することが有効である。たとえシェルターの中が暖かく、食べ物を消化するのに十分なだけの体温を彼らが維持していたとしても。
 なぜか。
 やつらは、目を覚ましたばかりだと、「眠すぎて食べ物が認識できない」生き物でもあるからだ。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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