ウーパールーパーに再生医療の可能性を探る。——岡山大学器官再構築研究室

      2016/05/05

 メキシコサラマンダー(いわゆるウーパールーパー)は、非常に再生能力の高い生き物である。飼育したことのある方なら、餌と間違えられて他個体に食べられてしまったり、管理上のトラブルで溶けてしまったりした外鰓が、いつの間にか元通りになっていた、という経験をしたことがあるかもしれない。外鰓に限らず、四肢や尻尾が千切れても、しばらくすると、まったく元通りに再生してしまう。骨や関節や筋肉の配列まで、まったく元通りに、だ。
 脊椎動物という、高度で複雑な体制を持つ生き物であるにも関わらず、フィクションじみた再生能力を持っていることから(宇宙生物、と呼ぶ人さえいる)、メキシコサラマンダーは、器官再生のメカニズムを解明するためのモデル動物として研究の対象にされてきた。その歴史は、19世紀まで遡る。損傷した四肢の傷口に神経繊維の断端が存在していると四肢の再生が行われ、神経線維を取り除いてしまうと再生が行われない(通常の創傷治癒が行われる)、ということは日本で言えば江戸時代の頃からわかっていた。しかし、その先のこと、すなわち、神経線維が存在するとどうして再生が起きるのか、ということは長らくわかっていなかった。

再生のしくみ

 その「どうして」にひとつの答えを見出したのが、岡山大学、器官再構築研究室の佐藤伸(さとうあきら)准教授である。FGFとBMPという2つの因子を傷口に添加することによって、神経線維が存在しない場合でも、四肢を再生させられることを明らかにしたのだ。
 iPS細胞を開発した山中伸弥教授がノーベル賞を受賞したことからもわかるように、再生医療に関わる技術は生命科学の中でもホットな分野のひとつである。その研究に両生類が関わっており、しかも、200年にわたる閉塞を打破したのが日本の研究者であるというのだから、爬虫両生類を扱うブロガーとしてはお話を伺わないわけにはいかない。そう思い、私は佐藤准教授を訪ねることにした。

人間の手足を再生したい

 岡山大学津島北キャンパスの東のはずれに、新技術研究センターという建物がある。その3階に、佐藤准教授の居室はある。
「ゆくゆくは、人間の手足の再生を実現するところまでもっていきたいと思ってるんですよ」
 居室のテーブルを挟んで向かい合う私に、研究の目標について、佐藤准教授はそう語った。
「遺伝子の情報や体の作り方のような基本的なシステムは、両生類と人間とでそう変わるわけではありません。なのに、ウーパールーパーは手足を再生できて、人間はできない。じゃあ、なにが違うのか。その違いがわかれば、人間に手を生やしてやることもできるかもしれないですよね。だから、それを目指して研究をしているんです」
 その第一段階として、メキシコサラマンダーが四肢を再生するメカニズムを明らかにしようとしているというわけだ。
 とはいうものの、脊椎動物の四肢は複雑な構造物である。骨・筋肉・神経・結合組織・皮膚が規則的に配列され、複雑な動きを可能にしている。そのような構造物を単純に切断すると、それぞれの構成要素が様々な反応を起こし、傷口は膨大な蛋白質で溢れかえってしまう。これでは、そのうちのどれが、神経から分泌され再生を引き起こす因子となっているものなのかを特定することは難しい。事実そのせいで、200年かけても再生のメカニズムが解明されてこなかったのだ。そこで、佐藤准教授が用いたのが、「過剰肢付加モデル」という研究系だった。これは、その名の通り、もとの足を切断せずに、「余計な足を生えさせる」ことで足の生えてくるメカニズムを研究しようというものである。
 四肢を切断した傷口に神経が存在すると、四肢が再生してくることは先に触れたが、実は、必ずしも切断面でなくても、「四肢の発生」は起こる。これまたメキシコサラマンダーやイモリの複数飼育をしたことのある方なら、仲間に間違って咬み付かれた個体の、その傷口から足が生えてくるのを見たことがあるかもしれない。切断面でなくても、「傷口に神経が通っている」という条件があると、彼らの体組織は足を再生してしまうのだ。佐藤准教授はこの性質を利用した。四肢の皮膚だけを切除し、そこに神経を移植、あるいは再生誘発因子の候補となるような蛋白質を作用させることによってそこから足を再生させ、そのメカニズムを探ったのである。これなら、筋肉や骨にはほとんどダメージを与えていないので、純粋に神経のはたらき、および実験的にそこに添加した物質のはたらきだけを抽出することができるというわけだ(生体への侵襲も少ないので、動物の福祉という観点からも好ましい方法だと思う)。

過剰肢の生えたメキシコサラマンダー

過剰肢の生えたメキシコサラマンダー

 こうして明らかになったのが、FGFとBMPという2つの蛋白質のはたらきだった。
「神経の代わりに、皮膚の欠損した部分にこれらの蛋白質を塗ってやると、足が生えてくることがわかったんです」

FGF・BMPのはたらき

 さらに同様の現象が、メキシコサラマンダーだけでなく、他種のイモリでも再現できることも、明らかになった。200年、わからなかったことに、とうとう緒を見出したのである。
 とはいえ、それが有尾類にしか引き起こせないのだとしたら、人の手足を再生するなんてことは夢物語に終わってしまう。夢を現実に近づけるためには、他の動物でもそれを再現できるようにしなければならない。
 そこで、次に取り組んだのが、無尾目、カエルで同様の現象が引き起こせるか、という実験だった。
 カエルは、オタマジャクシのうちは、イモリなどの有尾類と同様の高い再生能力を持っている。しかし、変態してカエルになると、その能力を失ってしまう。いうなれば、再生能力を持つ有尾類と、持たない人間との、中間的な存在である。ならば、カエルでも再生を誘起することができれば、人間への応用に1歩近づくことになる、というわけだ。
「アフリカツメガエルでも、傷を作って、そこにFGF・BMPを塗ってやると、再生反応自体は起こってきます。ただ、残念なことに、これは手にはならないんですよ」
 アフリカツメガエルの場合、FGF・BMPの作用によって、確かに腕のような棒状の突起が傷口から伸びてくるものの、それは最終的に手を作らず、棒状の突起のままで終わってしまうのだという。
「なんで、再生反応は惹起できるのに、それが完遂できないのか。その辺が今後の課題のひとつですね」
 と、佐藤准教授は言う。「ただ、“少し伸ばせる”というだけでも、活用はできると思うんですよ。たとえば、地雷なんかで腕をぜんぶ吹き飛ばされちゃった人は、鎖骨まで切除しないといけないそうなんですが、そうすると、体のバランスがだいぶん崩れちゃいますよね。でも、これを使って、棒状のものでも少し伸ばすことができれば、そこに義手をつけて、少なくとも外見上は整えてあげることができる。あとはほら、やーさんが足を洗うときに詰めた小指を、伸ばしてあげたりとか(笑)」
 実際、マウスを使って実験をしている共同研究者のもとでは、マウスの指や下腿の骨を、BMPによって伸展させることに成功しているという。しかも、伸展した脛骨と腓骨は、ちゃんと融合点で融合するそうだ。哺乳類で実現できているとなると、医療への応用も、現実味を帯びてくる。
 メキシコサラマンダーから得られた知見で、新たな医療技術が確立されるのだとしたら、爬虫類・両生類にとってはロマンの溢れる話である。

STAP細胞はないけれど

 さて、この器官再生プロセスにおいて、注目すべきなのは「分化した細胞が多能性を獲得している可能性がある」という点だ。
 通常、生物の発生過程において、一度、骨や筋肉といった特定の器官の細胞に分化した細胞は、別の細胞に変化することはできない。一度皮膚になった細胞はもうずっと皮膚のままだし、筋肉になった細胞は筋肉のままだ。皮膚の細胞が筋肉の細胞に変わる、ということは、通常はありえない。
 山中伸弥教授がiPS細胞でノーベル賞を取ったのは、その「ありえない」ことを実現させたからである。山中教授は、4種類の遺伝子を付加することによって、一度分化してしまった細胞に、もう一度「どんな細胞にもなれる」多能性を与えることに成功した。文章にしてしまうと簡単だが、それは、革命的なできごとだったわけだ。
 その「ありえない」はずの現象が、メキシコサラマンダーの四肢の再生においては、限定的ではあるものの、起こっている可能性があるのだ。佐藤准教授は、そのことも発見した。
 GFPという蛍光蛋白質がある。オワンクラゲという光るクラゲの仲間から、下村脩理学博士が抽出した蛋白質である(下村博士はこの発見でノーベル賞を受賞している)。佐藤准教授が行ったのはこの蛋白質を利用した実験だ。
 GFPを細胞内で合成するように遺伝子操作をしたメキシコサラマンダーから、皮膚の一部だけを野生型のメキシコサラマンダーに移植すると、皮膚の一部だけが蛍光を発するメキシコサラマンダーができあがる。このメキシコサラマンダーの、皮膚移植をした部分に四肢の再生を起こさせると、移植された皮膚の細胞に由来する部分だけが蛍光を発する足が生えてくる。この足のどこが蛍光を発しているのかを調べれば、もとの皮膚の細胞が、再生後の足のどの部分に分布しているのかがわかる。
 その結果、大部分の細胞は、新しい足の皮膚に分布しているが、一部の細胞は、骨や、骨と筋肉をつなぐ腱、靭帯に分布していることが判明した。「皮膚の細胞がたまたまそこにいる」というわけではなく、たとえば腱ならば、腱に特有の蛋白質を発現する、れっきとした「腱の細胞」としてそこにいることがわかったのだ。
「僕は内在性のリプログラミングと呼んでいるんですが、もともと皮膚だった細胞が、脱分化して、多能性を獲得して、いろいろなものになっている可能性があるんですよ。もし、これが本当に多能性細胞を作っているのであれば、彼らは内在的に、多能性細胞を作るシステムを持っている、ということになります」
 もし、そのようなシステムをメキシコサラマンダーが持っているのなら、同様のシステムが、人間の細胞にも眠っている可能性がある。それを呼び起こすことができれば、iPS細胞に似た、新たな多能性細胞を生み出すことができるかもしれない。
「iPS細胞は、人工的に遺伝子を加えて作るものなので、もちろんだいぶクリアされているんですが、いくつかのリスクが懸念されています。でも、これは、内在的なシステムを呼び覚ますだけなので、より安全に使えるかもしれない。ただ、iPS細胞のような“全能性”を獲得するものではありません。皮膚から、筋肉とか神経とか、そういうものにはなれない。でも、いくつかのものにはなれる」
 それは逆にメリットにもなりうる、と佐藤准教授は言う。
「たとえば、心筋梗塞で心臓がやばい、となったときに、iPS細胞から心筋を作るにはすごく時間がかかるんです。要するに、受精卵が心筋に分化するまでのプロセスを辿らなければいけないので。でも、この仕組みを活用できるとしたら、受精卵まで立ち戻らずに、言わば“心臓の幹細胞(元になる細胞)”みたいなものを作れる。すでに心筋になる準備をしている細胞を作ることができるので、より短時間で心筋の再生ができる可能性があるんです。しかも、内在的なシステムを利用して。だから、そういったものを作り出すシステムを、見つけだすというのが、今の短期的な目標ですね」
 多能性細胞といえば、捏造と剽窃によって昨年一大スキャンダルを巻き起こしたSTAP細胞が記憶に新しい。あのスキャンダルによって、「多能性細胞の創出」自体になんだかいかがわしい印象が生まれてしまったきらいがあるけれど、それを乗り越えて、新たな多能性細胞の可能性を提示できたなら、とても素晴らしいことだと思う。

研究者としての歩み

 一通り、研究のお話を伺った後で、今度は、研究者を志し、今にいたるまでの歩みを伺ってみることにした。
 もともと動物好きで、『かまきり おおかまきりの一生』(福音館書店)という本の読書感想文を書いて感想文コンクールで「いいところまでいった」という佐藤准教授。けれども、生命について深く考えるようになったのは、ご兄弟の影響が大きいという。
「うち、4人兄弟なんですけど、いちばん上の兄が重度障碍者なんです。第3染色体の短腕が半分欠損していて。それって、ゲノムの類似性ということでだけで言えば、健常な人と比べたら、チンパンジーやオランウータンよりも、遠くなってるってことなんじゃないかと。でも、彼は人間なんです。じゃあ、ヒトの定義ってなんなんだろう、人間とそれ以外を峻別してるものってなんなんだろうってずっと考える事があったりして。それが、生命科学を志した理由かもしれません。
 それから、別の兄が同業者で、受精卵から原腸陥入(受精卵から一定程度分裂した胚の表面の細胞が内部へ陥入し、腸を作り始める過程のこと)に至るまでの遺伝子のすべての動きをとらえてやろう、という研究をしていて。で、受精卵って、1個のものが分裂して、どんどん違うものになっていくじゃないですか。小学生の頃、それを聞かされたんですけど、ぜんぜんイメージできなくて。どうなってるんだろう、って考えたのも、きっかけのひとつにはなっていますね」
 ひところは、障碍を抱えるお兄さんのために、医者になろう、と考えたこともあるそうだ。しかし、経済的な理由から断念し、理学研究の道に進むことになる。
「再生という分野を選んだのは、“ものづくり”が好きだったというのがあると思います。もともと、どちらかと言えば純粋な理学というよりは、工学的な発想の人間なので。知見を利用して何かを作る、そういうことがおもしろいなと思っていて。で、小さい頃から“ノーベル賞をとる研究をする!”みたいなことを言っていたので、応用的な分野でノーベル賞狙うとしたら、再生かな、と」
 そこで、進学した東北大学では、カエルの再生研究に取り組んだそうだ。
「ただ、4年生から博士まで、カエルをやってたんですが、ちっともうまく行かなくて。ちょうどポスドク問題(博士号取得者の数と、彼らの就くことのできるポストの数が釣り合わず、たくさんの博士がまともに就職できず低賃金で不安定な仕事をせざるを得なくなる問題)が顕在化してきた頃で、業績もないのにどうすんだって絶望に打ちひしがれてました。
 しかも、当時日本で、手足の再生やれる研究室はなかったんですよ。僕の先生も、そのとき退官ぎりぎりで。だから、海外に行くしかないと思って、アメリカに行ったんです。アメリカで再生研究をやっている方に打診したら、来ていいよって言ってくれたので」
 その時から、現在まで続く過剰肢付加モデルの研究をはじめることになる。幸い、これが大当たりし、岡山大学でテニュアトラックとしての採用に結びつき、現在准教授として、研究を続けるに至っている。
「だから、アメリカに行ったことは、今にして思えば正解だったと思うんですけど、当時は大変でしたね」
 なにしろ、ろくに英語でコミュニケーションがとれない。相手の言っていることもよくわからないし、言いたいこともうまく伝えられない。携帯電話の契約など基本的な手続きもままならず、本当に苦労したそうだ。
「あっちで、電話をかけると、まず電話番号……ソーシャルセキュリティーナンバーだったかな……とにかく、ナンバーを言えって言われるんですよ。機械メッセージで。はじめはそのメッセージが何言ってるかすらわからないし、“ナンバーを言えってことか”ってわかって、ナンバーを言っても、機械に通じないんですよ。だから電話かけることすらできない。ほんとに、3歳児になったみたいな気分でした。なにもできなくて。最初の半年間ほんと手首切ろうかと思いましたよね……」
 そんな中、研究室のボスがいい人で、好きにやれ、金は出すから、と言ってくれたことが救いだったという。
「で、まあ、1年くらいすると、だんだんコミュニケーションもとれるようになってきて。で、研究もうまく回りだしたので、そこからはちゃんと信頼も得られて、ずっと楽になってきたんですけど」
 1年もの間、コミュニケーションのろくにとれないポスドクを気長に待っていてくれ、あるときからはゴルフに連れ出してくれたりしたボスの人柄と、プライベートで支えてくれた奥さんの存在がなかったら、くじけていたかもしれない、と佐藤准教授は語った。
「もう、今でも思い出すだけでつらいですよ」
 ちゃらんぽらんな研究をして、と自嘲する佐藤准教授だが、実際にはなかなかタフな人生を歩んでこられた方なのだ。
 ところで、アメリカにいる間に強く感じることになったのは、彼の地のアカデミアが日本人研究者に寄せる信頼感だったという。
「向こうの学会で、日本人のポスドクってすごいありがたがられるんですよ。よく働くし、嘘つかないし、データを厳密に扱うし、自分で考えていろいろ動けるし、ってことで、信頼が厚いんです。だから、アメリカ時代のボスも自由にやらせてくれたし、信頼が得やすかったってことはあります。でね、それは、先輩の研究者たちのおかげなんですよ。彼らがアメリカでよくやってくれたから、そういう信頼感が作られてきた。それを感じられたのは、嬉しかったことですね。で、ちょうど留学中に、山中先生がiPS細胞を発表して。はじめは、そんなの嘘だろって感じだったんですけど、3ヶ月位であちこちで再現されると、やっぱ日本人すげぇってなって。そういうのをリアルタイムで体験できたのは、アメリカに行ってよかったことだと思います」
 だから、そのような日本人の評判を維持することに、自分の研究で貢献することも課題だと思っていると、佐藤准教授は語った。

科学の裾野を広げたい

 最後に、あらためて、今後の展望を伺ってみた。
「ひとつはね、さっき言ったように、内在性リプログラミングのシステムを明らかにすること。これを、あと10年くらいでやりたいな、と思っています。で、私が37歳ですから、あと30年くらい、研究する時間はあるので、それの間には、人間の手足を再生できるようにして、で、ノーベル賞をとる、と(笑)
 でも、我々がやりたいのは、“手足を再生させること”じゃないんですよね。ウーパールーパーって、手足も再生するし、尻尾も再生するし、目玉も心臓も再生するし、脳だって6分の1くらい削っても再生する。体全体が高い再生能力を持ってるんです。しかも、がんにならない。いや、なるんですけど、がんで死なない。基本的な体のつくりは人間と変わらないのに、なんでそんなウルトラC ができるんだってことを知りたいわけです。その中で、手足というのが、発生的にいちばん複雑なので、まずそこからやってるんですね。それができたら、もっと簡単なところに落としていく、と」
 最終目標は、四肢に限らずすべての器官の再生を可能にすること。確かに壮大な目標だけれど、お話を伺っていると、夢物語でもないように感じられる。
 そして、もうひとつ、目標があるのだという。
「僕はね、ほんとうにラッキーだったと思うんです。博士号とってから、うまいことアメリカの研究室に行くことができて。そこのボスがいい人で、好きにやらせてくれて。それでまあ、こんな、ウーパールーパーに足を生やすみたいな漫画みたいな研究をしてやっていけてるので。今、ポスドク問題ってあるじゃないですか。就職先がないって。そういう人たちにはほんと申し訳ないなって思いますよ(笑) だから、そういうところを変えていけたらいいな、とも思うんですよ」
 そのために佐藤准教授は、小学校や高校に呼ばれて行ったり、イベントなどに出て研究内容について話すようにしているそうだ。
「この実験って、小学生とかのレベルでも簡単にできるんですよ。で、ウーパールーパーに手が生えてくるってすごいインパクトじゃないですか。だから、子どもたちに科学に対する関心を持ってもらうのに、いいシステムだと思うんです」
 今、科学技術は高度に、複雑になりすぎて、子どもたちや一般の人たちには、いまいち理解のできにくいものになってしまっているきらいがある。科学離れと言われる風潮は、ある意味では科学の発展の「副作用」と言えるかもしれない。そんな中で、目に見えてわかりやすく、かつ、大学レベルの研究として成り立っている過剰肢付加モデルには、人々の科学への関心を喚起する効果が期待できる。
「今、基礎研究ってなかなかお金が貰えないじゃないですか。僕の研究はまだ、応用する目がありますからいいですけど、ほんとの基礎研究だと、もう“やるな”って言われてるみたいな状況で。でも、科学に関心を持って、おもしろいなって思ってくれる人の層が増えれば、そういうところも変わってくると思うんですよね。で、お金がくれば、ポストも増えるかもしれない。だから、なるべくいろんなところで、研究について話すようにしてるんです」
 他学部も受ける教養課程の授業には、研究室で作った透明標本を持って行ったりニワトリの胚を持って行ったりして、学生たちに少しでも、科学に対する関心を芽生えさせられるような工夫をしているのだという。

自作の透明標本

自作の透明標本

「教養過程の授業の内容なんて、すぐ忘れちゃうじゃないですか。だったら、見てもらおうと。教えなくても、本物を見れば学生たちは何か感じると思うんですよ。だから、見せる授業をなるべくするようにしてます。手を再生させてるウーパールーパーを何人かに飼わせて、再生する過程を、週に1回写真撮って送ってもらうようにしたりとか。でTwitterで流して」
 そのようにして、科学研究を支える「裾野」を広げようと、努力されているのである。
 ウーパールーパーの手からもう1本手が生えてくる、ということに衝撃を受けた子どもたちや、その過程をレポートすることになった学生たちが、あとになって、「あの研究がノーベル賞を取った」という報せを受けたら、それは、科学への関心を沸き立たせる大きな起爆剤になるように思われる。「これは、あのときの!」という驚きとともにそのニュースを聞く人たちが一定数存在したら、それは大きなうねりとなりうるだろう。そんな未来を想像すると、なんだかわくわくしてしまう。生き物好き・科学好きの1人として、いずれの取り組みもが実を結ぶことを、期待せずにはいられない。
 もちろん、人間の手が再生できる、ということになったらそれは革命的なできごとだ。ぜひとも、ノーベル賞受賞にこぎつけて欲しい、と思う。
 今後は、より多様な動物たちを対象にして、再生研究を展開していきたいという佐藤准教授。その対象には、トカゲなどの爬虫類も想定されている、ということだ。
「トカゲの尻尾って、骨が再生しないじゃないですか。あれがなんでなのか、っていうのも気になりますよね。だから、やってみたいんですけど」
 両生類の管理に比べて、爬虫類の管理は難しい、と感じられているそうであるから、爬虫類の管理に自信がある、という若い人は、岡山大学を目指してみるといいかもしれない。もし、自切した尻尾を完全に元通りに再生させることに成功したら、全爬虫類マニアから神と崇められることになるだろう。挑戦してみてはいかがだろうか。
 それにひょっとしたら……一緒にノーベル賞、取れるかもしれないよ。

研究内容&PI - organregeneration ページ!
佐藤准教授の研究室はこちら。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

 - 爬虫類の研究室