いきものイベントは、保全活動の啓発の場でなければいけないのか?

      2016/03/18

 「いきもにあ」というイベントがある。生き物好きのクリエイターが集まって、生き物をモチーフにした制作物を販売する物販イベントである。生き物オリエンテッドなデザインフェスタ、あるいはコミックマーケットと言ってもいいかもしれない。生き物の魅力を伝えたい、という主旨で開催されているため、自然科学系の研究者による講演や展示も行われる。「生き物」、「自然」というキーワードに引っかかるものならなんでもござれの、ごった煮イベントである。当然、訪れるのも生き物が好きな人が大半で、会場は、「生き物好きたちのお祭り」のような様相を呈す。
 先日、京都のみやこめっせでそのイベントが開催された。
 通常ならば、このようなイベントの後にSNS上に溢れかえるのは、生き物好きたちのポジティブな感想や、「戦利品」(このテのイベントで買い物をした人たちは、お金で買ったに過ぎないものをなぜかそう呼ぶのだ)の報告に限られるのだけれど、今年は、やや毛色の違ったツイート群が、タイムラインに投げ込まれることになった。
 「いきものイベントは、はたして保護意識の向上に寄与しているのか?」と問いかけるツイートだ。
 問いかけを行なった人は、「生き物」をただ娯楽として消費することを良しとせず、「生き物に関心を持つ」ということはすなわち、「生き物の保全に関心を持つ」ということだと考えているようだった。「保護意識を高めるのでなければ、イベントを開催する甲斐はない」というのがその人の立場だ。その立場から、「このイベントは、保護意識を高めるために役に立っているのか?」という疑義を示したのである。
 その問いかけに、タイムラインは一時騒然とした。
 反応は、主に2つに分かれた。
 ひとつは、ツイートに賛同し、「いきものイベントが保護意識向上の場になるように、工夫していかなければいけない」と表明するもの。
 もうひとつは、「イベントが保護意識向上のためのものである必要はないんじゃないの?」と、ツイートの前提に疑問を呈すものだ。
 両陣営が激論を巻き起こし発火する、ということは幸いなことになかったけれど、タイムラインはしばらくの間、双方の論者がめいめい自説を展開し大騒ぎとなった。
 岡山日帰り取材とその準備で忙しく(そもそも仕事してるし)、リアルタイムでエントリーを書き上げることができなかったのだけれど、それらのツイートを眺めながら、私も思うところがあったので、遅れ馳せながら書いてみたいと思う。
 結論から言えば、いきものイベントは、種の保存だとか環境保全だとか、そういったものの啓発活動の場である必要はない、と私は考えている。
 そういったことを訴える出展者がいてもいいし、保全活動に携わっている人をゲストに呼んで講演をしてもらってもいいけれど、イベント全体が、それを目的にする必要はない、というか、してはいけないんじゃないか、というのが私の考えである。
 そういう堅い話は、なかなか人々の耳には入らないからだ。
 生き物の世界への本当の入り口が自然の中にしか存在しない以上、街中のイベント会場で行われるいきものイベントは、生き物の世界に足を踏み入れる前のオリエンテーション以上のものになることはできない。大学で言えば、学校説明会みたいなものだ。学校説明会の存在意義は、進路のふらふらしているできるだけたくさんの高校生に「とりあえず大学の存在を認知してもらう、興味を持ってもらう」ことにある。そんな場所で、「うちの大学は偏差値65以下の人はとらないから」みたいなことを言ったり、レポートを課したりしようとする担当者がいれば、大学はその者を更迭するだろう。実際には優れたレポートを書けるような学生が欲しいのだとしても、説明会でそんなことをしたら学生に敬遠され、結局「そういう学生」まで取り逃してしまうに決まっているからだ。同じように、いきものイベントで「生き物好きというのは環境保全にまで気を配れる人のことだ」とか、あまり意識の高いこと(私たちにとっては当たり前であったとしても)を全面に打ち出してしまうのは、「できるだけ多くの人に関心を持ってもらう」ためのオリエンテーションとして失策なのではないかと私は思う。それでは、「今はただの収集家だけれど、将来ひょっとしたら真の生き物好きとして目覚めるかもしれない」人たちを、かえって生き物から遠ざけてしまうことになる。
 そもそも、訪れた人すべてに保護意識を持ってもらおう、なんてのは土台無理な話だ。人材育成の原則に反している。100人集まったら、その中の10人そうなってくれれば御の字、というもので、そういう人たちの数を増やしたいのなら、母集団をどんどん大きくしていくしかない。そのためには、いきものイベントは、難しいことを言わず、なるべく敷居が低く、たくさんの人たちが入ってこられるようなものであるべきだと思うのである。保全活動にまで関心を持ってくれる真の生き物好きを10人発掘したいなら、「単なる収集家」で終わる90人を許容しなければいけない、と私は思う。
 イベントは、どんな形であれ、生き物に関心を持ってもらうための場所であればいいのではないだろうか。
 その後の難しいことは、大学や博物館に任せればいい。そういうところに「行ってみたい」と何人かの人に思わせることさえできれば、それで成功なのだと私は思う。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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