トカゲの尻尾切りについて

      2016/02/22

 このブログのタイトルは、「とかげもどきのしっぽ。」なわけですが、このタイトルを聞いて多くの人が連想するのは、いわゆる「トカゲの尻尾切り」かもしれません。
 トカゲの仲間の多くは、危険に晒されると、自ら尻尾を切って逃げます。切断された尻尾がじたばたと動きまわって、捕食者の注意を惹いているうちに、本体は逃げおおせるのです。切れた尻尾は、しばらくすると再生します。
 組織が末端の構成員をスケープゴートにして切り捨てることの比喩に使われるくらい、「トカゲの尻尾切り」は有名な現象です。けれど、その実態は、あまりよく知られていないように思われます。トカゲの尻尾は1度切ったら2度は切れないにも関わらず、「保身のために何度でも切れるカード」(ドラマの『アンフェア』なんて、ほとんど「そのことだけ」をテーマにしていますね)の比喩として用いられているのが、その証左と言えるでしょう。
 というわけで、今日は、「トカゲの尻尾切り」正しくは「自切」という現象について書いてみたいと思います。

自切するトカゲ、しないトカゲ

 トカゲといえば「尻尾を切るもの」と思っている人は多いですが、自切することのできないトカゲもいます。オオトカゲの仲間、アガマの仲間、カメレオンの仲間の尾には、自切するための構造が備わっておらず、これらの仲間は自切することができません。また、グリーンイグアナは、成長に伴って、自切するための構造が次第に消失していくため、成体になると、ほとんど自切することがなくなります。

自切するためのしくみ

 トカゲの尻尾は、どこででも切れるわけではありません。切れる「場所」が決まっています。その場所のことを、「自切面」と呼びます。ナイーブに考えると、尻尾に通っている尾椎の、椎骨と椎骨の間にそれがありそうに思えますが、実際には、それぞれの椎骨の中央部分に備わっています。尾椎が形成された後、椎骨の中央に、二次的に軟骨および結合組織からなる板状の構造が形成され、それが自切面となります。骨だけでなく、それを取り囲む筋肉や脂肪にもその部分に隔膜があり、切断しやすくなっています。この部分で、トカゲが「自発的に」尻尾を切った場合のみ、その後の再生プロセスがつつがなく進行します。これ以外の場所で、あるいは、トカゲの方に自切する気がないのに無理矢理尻尾を引きちぎられてしまった場合には、再生することができません。それどころか、傷口からの出血で失血死することもありえます。
 なお、自切が引き起こされる生理学的な仕組みは、種によっても異なっており、まだはっきりと解明されてはいません。ただ、脊髄反射が関わっていることが示唆されています。局所的には、自切面の周辺の筋肉が収縮し、椎骨を前後に牽引することによって、切断しているようです。トッケイを用いた研究で、切断直前に自切面の筋肉は特殊な構造を形成し、組織を切り離しやすくしていることがわかっています(Sanggaardら 2015)。切断後は、切断面の筋肉がさらに収縮することで、止血を行います。
 切り落とされた尻尾は、しばらくの間動きまわり、外敵の注意を引きつけます。ただ闇雲に動くだけではありません。エネルギーを温存しつつ不規則な動きをし、ぶつかったものに合わせて速度や方向を変えるという離れ業までやってのけ、囮としての役割を果たすのです。場合によっては尻尾自体もその動きによって外敵から逃げおおせることがあり、その場合には、尻尾の持ち主は後で現場まで戻り、残された尻尾を食べることによって自切によるエネルギーの損失を取り返します(Clark Jr 1971)。

自切後の再生プロセス

 自切後の尾の再生は、創傷治癒と器官再生の合わせ技のように進行します(Hutchinsら 2014)。
 まず行われるのは、上皮組織(皮膚や粘膜を構成する組織)による創面の被覆です。それと同時に、その下に血管が張り巡らされます。
 被覆が終わると、再生尾の伸長がはじまります。まず起こるのは、脊髄から周辺の結合組織への、上衣細胞(脳や脊髄を覆う上皮細胞一種)の進入です。この上衣細胞は、脊髄を再生するための神経幹細胞および神経前駆細胞の供給源となるようです(Gilbertら 2015)。それに引き続いて、血管に富んだ組織が伸長し、筋繊維が形成されはじめます。尾の伸長が進むと、中心を走る軟骨と、周辺を取り囲む骨格筋(いわゆる筋肉)が分化してきます。
 この再生プロセスは、受精卵から赤ちゃんが発生してくるときのプロセスや、イモリの四肢の再生プロセスとは異なっています。イモリの場合、四肢を切断すると、切断面に「再生芽」と呼ばれる組織ができ、それが四肢の組織の置き換わり、さらに先端に再生芽を作り、というプロセスで再生していきます。ビルの建設に喩えるなら、まず2階部分まで足場を作ったら、2階までを完成させて、それから3階用の足場を組み、3階を完成させ、4階用の足場を組み……といったイメージです。一方、トカゲの尻尾の場合は、とりあえずある程度のところまで、「未だナニモノでもない組織」をぐぐーんと伸ばしておいて、後からそれを「尻尾の組織」に作り変えるという方法をとっています。ビルの建設で言えば、先に足場を20階分作ってしまってから、ビルを建て始める、というイメージです。いわば正反対の再生の仕方をしているわけですね。
 一般的な創傷治癒のプロセスは、イモリの再生よりは、トカゲの再生のやり方に近いものです。そのため、トカゲのやり方を真似すれば、人間にも「再生」ができるのではないか、ということで、トカゲの尾の再生に関する研究は世界中でたくさん行われています。残念なことに、日本ではほとんど行われていないのですが……。
 ただ、注意しなければいけないことは、トカゲの場合、尻尾は完全に元通りになるわけではない、ということです。再生尾の軟骨は、骨に置き換わることはありません。色や形も、微妙に異なるものとなります。自切面が再生しないので、先ほども書いた通り、自切もできなくなります。
 なお、ヒョウモントカゲモドキの場合、自切した尾の再生は、体の成長に優先して行われます。給餌量を制限した条件下でも、体の成長はさておいて、まず尾をしっかりと再生させることがわかっています(Lynnら 2013)。また、再生した尾は、もとのものよりもたくさんの脂肪を蓄えられる構造になるそうです(Russellら 2015)。彼らにとっては、「尾に栄養を蓄えておくこと」の方が、「体を大きくすること」よりも適応的な行動なのかもしれません。自切した個体は成長が遅くなるわけで、飼育目的によっては注意が必要でしょう。

自切による影響

 外敵から逃れ、生存率を上げるための策である自切ですが、リスクを伴う行為でもあります。たとえばトカゲモドキの仲間のように、尾に栄養を貯めこむタイプのトカゲの場合、自切することは、せっかく貯めこんだ栄養を失ってしまうことにつながります。また、尾を失うことは行動にも影響を及ぼします。インドトカゲを用いた研究では、自切後、トカゲの平均移動速度と持久力がそれぞれ26%、17%低下したそうです(Luら 2013)。同じ実験で、後肢の歩幅が小さくなり、その分歩数が増えたことがわかっており、そのような動きの変化が影響を及ぼしている可能性があります。ヒョウモントカゲモドキを用いた研究で、自切後の個体は体の重心が大きく前方へ移動することがわかっており(Jagnandanら 2014)、それがこのような変化に繋がっているのかもしれません。一方で樹上での安定性には、それほど影響はないようです(Hsieh 2015)。ただ、これらの結果が個体の適応度にどの程度影響するのかは、まだよくわかっていません。東邦大学で適応度に関する研究が行われているようなので、成果に期待したいところです。

 以上が、「トカゲの尻尾切り」の概要です。
 こまかくつっこんでいけば、まだまだ書くべきことはたくさんあるのですけれど、大まかなイメージはこれで掴めるのではないか、と思います。わからないことはまだ「山」ですし、再生医療に応用できる見込みもありますから、興味のある人はいっそ自分で研究してみちゃってもいいかもしれません。

【参考文献】

  1. Clark, D. R. (1971). The strategy of tail‐autotomy in the Ground Skink, Lygosoma laterale. Journal of Experimental Zoology, 176(3), 295-302. doi: 10.1002/jez.1401760305
  2. Cromie, G. L., & Chapple, D. G. (2012). Impact of tail loss on the behaviour and locomotor performance of two sympatric Lampropholis skink species. PloS one, 7(4), e34732. doi: 10.1371/journal.pone.0034732
  3. Gilbert, E., & Vickaryous, M. (2015). Neural Stem/Progenitor Cells of the Spinal Cord are Activated in Response to Tail Loss in the Leopard Gecko. The FASEB Journal, 29(1 Supplement), 346-2.
  4. Hutchins, E. D., Markov, G. J., Eckalbar, W. L., George, R. M., King, J. M., Tokuyama, M. A., ... & Siniard, A. L. (2014). Transcriptomic analysis of tail regeneration in the lizard Anolis carolinensis reveals activation of conserved vertebrate developmental and repair mechanisms. Plos One, e105004. doi: 10.1371/journal.pone.0105004
  5. Jagnandan, K., Russell, A. P., & Higham, T. E. (2014). Tail autotomy and subsequent regeneration alter the mechanics of locomotion in lizards. The Journal of experimental biology, 217(21), 3891-3897. doi:10.1242/jeb.110916
  6. Lu, H. L., Ji, X., & Du, W. G. (2013). Tail loss reduces locomotor ability but not metabolic rate in a viviparous skink, Sphenomorphus indicus. Animal biology, 63(3), 369-380. doi: 10.1163/15707563-00002419
  7. Lynn, S. E., Borkovic, B. P., & Russell, A. P. (2013). Relative Apportioning of Resources to the Body and Regenerating Tail in Juvenile Leopard Geckos (Eublepharis macularius) Maintained on Different Dietary Rations*. Physiological and Biochemical Zoology, 86(6), 659-668. doi: 10.1086/673312
  8. Mader, D. R., Divers, S. J. (2005). Reptile Medicine and Surgery. Saunders. ASIN: B005HC232E
  9. Russell, A. P., Lynn, S. E., Powell, G. L., & Cottle, A. (2015). The regenerated tail of juvenile leopard geckos (Gekkota: Eublepharidae: Eublepharis macularius) preferentially stores more fat than the original. Zoology. doi: 10.1016/j.zool.2014.12.003
  10. Sanggaard, K. W., Danielsen, C. C., Wogensen, L., Vinding, M. S., Rydtoft, L. M., Mortensen, M. B., ... & Enghild, J. J. (2012). Unique structural features facilitate lizard tail autotomy. Plos One, e51803. doi: 10.1371/journal.pone.0051803
1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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