温度依存性決定について

      2016/02/22

 ニシアフリカトカゲモドキは、爬虫類の中では、人工繁殖させるのが比較的容易な部類に含まれます。そのため、この生き物を飼育している人の中には、繁殖に取り組む人も少なくありません。
 ニシアフリカトカゲモドキを繁殖させるときに考えることのひとつは、卵をどれくらいの温度で孵化させるか、ということです。というのは、温度条件によって、生まれてくる赤ちゃんがオスになるか、メスになるかが決まってしまうからです。ニシアフリカトカゲモドキの場合は、31~32℃ではすべてがオスに、30℃以下と34℃以上ではすべてがメスになるとされています(Vietsら 1994)。このような性決定の方法を、温度依存性決定(Temprature-dependent Sex Determination TSD)と呼びます。
 爬虫類の中には、TSDによって性別が決まるものが少なくありません。ワニはすべての種類がそうですし、カメもほとんどの種類がTSDを行います。有鱗目では染色体による性決定を行うものが優勢ですが、ニシアフリカトカゲモドキのようにTSDを行うものも存在します。フトアゴヒゲトカゲのように、通常は染色体による性決定を行う種でも、一定の条件下ではTSDを行うケースもあります(Holleleyら 2015)。哺乳類や鳥類はすべて染色体によって性別が決まりますし、学校で教わることもあまりないですから馴染みが薄いかもしれませんが、TSDは、ありふれた現象なのです。
 TSDについて調べることは、人間も含めた動物全体の「性」というものの在り方に対する理解を深めることに繋がるため、多くの研究者が、その仕組みの解明に取り組んでいます。しかし、まだわからないことも多く、その全体像は解明されたとは言えません。ただ、興味深い研究成果は次々と明らかになっています。
 そこで、今日は、トカゲモドキを中心として、TSDについて説明してみたいと思います。

温度感受性期について

 TSDを行う動物は、卵の中で胚が育っている間の温度によって性別が決まるわけですが、発育期間すべての温度が影響するわけではありません。影響するのは、「温度感受性期」と呼ばれる特定の期間の温度だけです。それ以外の時期の温度は、性決定には関わりません。温度感受性期にメスになりやすい温度で発育した胚は、それ以外の期間にオスになりやすい温度に晒されたとしても、メスとして生まれてきます。温度感受性期とは、すなわち胚の性腺が分化してくる時期のことで、種によってもちろん違いはありますが、おおむね、全発生期間を3等分した真ん中の期間であるとされています。

鍵となるのはアロマターゼ活性

 TSDを行う生き物において、性分化を促す直接的な因子となるのは、いわゆる男性ホルモンのひとつであるテストステロンと、女性ホルモンのひとつであるエストラジオールの濃度、あるいはその濃度の比です。ざっくり言えば、性腺が分化してくる時期にテストステロン濃度が高ければオスになり、エストラジオール濃度が高ければメスになるのです。様々な種で、本来ならばオスが生まれてくる温度で育った胚でも、温度感受性期に人為的にエストラジオールを投与してやると、メスに分化することがわかっています(Janesら 2007他)。要するに、オスになるかメスになるかを最終的に決めているのはホルモンの濃度であって、温度は、その濃度に影響を与える因子だ、というわけです。
 では、温度は、どのようにしてホルモン濃度に影響を与えているのでしょうか。
 雌雄によらず、性分化の際には、未分化な性腺において、まずテストステロンが合成されることがわかっています。オスの場合はそのまま、メスの場合は、それがさらにエストラジオールに変換されることによって、分化が促されます。テストステロンからエストラジオールを合成する酵素は、アロマターゼと呼ばれています。温度環境は、この、アロマターゼの合成量に影響を与えるのです。メスが生まれやすい温度ではアロマターゼの合成量が増えてエストラジオール濃度が高くなり、オスの生まれやすい温度ではアロマターゼの合成量が抑えられ、テストステロン濃度が高くなる、というわけです。
 アロマターゼの合成量を制御しているのは、DNAのメチル化のようです。ミシシッピアカミミガメを用いた研究において、オスの生まれやすい温度では、DNAの中の、アロマターゼの情報をコードしている部分に、「メチル基」という炭素と水素の塊が「蓋」をしてしまうことがわかりました。その結果、細胞は、DNAの情報を読み取ってアロマターゼを合成することができなくなってしまうのです(Matsumotoら 2013)。
 しかし、ではこの「メチル化」が、どのようなメカニズムで制御されているのかは、まだよくわかっていません。

性決定に関わる遺伝子について

 TSDを行う動物も、染色体によって性決定を行う哺乳類と同様の遺伝子を、性決定に用いているらしいことがわかっています。たとえばセルトリ細胞(精巣の中にある、精細胞の支持、栄養供給などを行う細胞)の分化を促すSox9という遺伝子や、抗ミュラー管ホルモン(雌性生殖器のもとになるミュラー管を退化させるホルモン。AMH)をつくる遺伝子、Sox9の発現を抑えメスへの分化を促すFoxl2という遺伝子などが、温度感受性期の胚の性腺では活発にはたらいています。ただし、発現パターンに微妙な違いはあるようです。たとえばヒョウモントカゲモドキにおいて、Sox9遺伝子は、胚発生の途中まで雌雄とも同じように発現します。ある段階以降、メスでは発現がなくなり、オスでは発現し続けることによって、雌雄の分化が行われるのです。マウスの場合は、メスでSox9の発現はほとんどありませんから、マウスとトカゲモドキとでは、遺伝子の役割に違いのある可能性があります。なお、温度がどのようにしてそれらの遺伝子の発現に影響しているのかは、まだよくわかっていません。
 2015年に、基礎生物学研究所の谷津遼平さんらが、ミシシッピワニにおいて温度条件を遺伝子の発現に「翻訳」していると思われる蛋白質を特定したと発表し、ニュースになりました(Yatsuら 2015)。TRPV4という、温度刺激によって開閉し、細胞内へのカルシウムイオンの流入を変化させる蛋白質がそれです。ミシシッピワニの「オスになる温度」に反応してこの蛋白質は活性化し、細胞内にカルシウムイオンを流入させます。このイオンの流入が、オス化を導く遺伝子の発現させるトリガーになっているのではないか、というわけです。他の爬虫類でも同じ蛋白質がはたらいているのか、また、この蛋白質の活性化がどのように遺伝子の発現に結びついているのか、さらなる研究が待たれます。

温度は、行動特性にも影響を与える

 胚が発生する間の温度環境が影響を与えるのは、性腺の分化だけではありません。それとは独立に、生まれた個体の形態や行動に影響を及ぼすことがわかっています。
 ヒョウモントカゲモドキを用いた実験では、本来オスになる温度で育った胚に、人為的にエストラジオールを投与することで生まれたメスは、メスになる温度で自然にメスになった個体に比べて、「オスっぽい」形態と行動をとるようになることがわかりました(Janesら 2007)。このことから、性腺の分化と、性的二形の発達は、独立したメカニズムで行われていることが示唆されます。性腺が分化すればそれで終わり、というわけではないようなのです。

 以上が、TSDについて現在わかっていることの、ざっくりとした説明です。こまかいところはだいぶ端折っていますが、概要を伝えることができていればと思います。
 爬虫類の性決定のしくみはまだわからないことだらけです。未だ完全に解明されたとは言えない状況ですが、その分、興味は尽きません。
 関心のある方は、以下の参考文献をあたってみてはいかがでしょうか。

【参考文献】

  1. Holleley, C. E., O'Meally, D., Sarre, S. D., Graves, J. A. M., Ezaz, T., Matsubara, K., ... & Georges, A. (2015). Sex reversal triggers the rapid transition from genetic to temperature-dependent sex. Nature, 523(7558), 79-82. doi: 10.1038/nature14574
  2. Janes, D. E., Bermudez, D., Guillette Jr, L. J., & Wayne, M. L. (2007). Estrogens induced male production at a female-producing temperature in a reptile (Leopard Gecko, Eublepharis macularius) with temperature-dependent sex determination. Journal of Herpetology, 41(1), 9-15. doi: http://dx.doi.org/10.1670/0022-1511(2007)41[9:EIMPAA]2.0.CO;2
  3. Kohno, S., Parrott, B. B., Yatsu, R., Miyagawa, S., Moore, B. C., Iguchi, T., & Guillette Jr, L. J. (2014). Gonadal differentiation in reptiles exhibiting environmental sex determination. Sexual Development, 8(5), 208-226. doi: 10.1159/000358892
  4. Matsumoto, Y., Buemio, A., Chu, R., Vafaee, M., & Crews, D. (2013). Epigenetic control of gonadal aromatase (cyp19a1) in temperature-dependent sex determination of red-eared slider turtles. Plos One, 2013. doi:10.1371/journal.pone.0063599
  5. Valleley, E., Cartwright, E. J., Croft, N. J., Markham, A. F., & Coletta, P. L. (2001). Characterisation and expression of Sox9 in the leopard gecko, Eublepharis macularius. Journal of Experimental Zoology, 291(1), 85-91. doi: 10.1002/jez.7
  6. Viets, B. E., Ewert, M. A., Talent, L. G., & Nelson, C. E. (1994). Sex‐determining mechanisms in squamate reptiles. Journal of Experimental Zoology, 270(1), 45-56. doi: 10.1002/jez.1402700106
  7. Yatsu, R., Miyagawa, S., Kohno, S., Saito, S., Lowers, R. H., Ogino, Y., ... & Guillette Jr, L. J. (2015). TRPV4 associates environmental temperature and sex determination in the American alligator. Scientific reports, 5. doi: 10.1038/srep18581
1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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