伝統文化は守るべきか?

      2016/03/18

 長野県諏訪市の諏訪大社では、毎年元日に、「蛙狩神事」というものが行われている。諏訪大社の近くを流れる御手洗川に生息するカエルを捕まえ、矢で射抜き、国家平安五穀豊穣を願うための生け贄として神前に捧げる神事である。
 この神事に対して、全国動物ネットワークという動物愛護団体が抗議を行なっている。生きたカエルを串刺しにして殺すのは残酷だ、というのがその理由だ。団体は、神事をとりやめるか、少なくとも、カエルを殺さない形式に変更するよう訴えている。
 今のところ、諏訪大社側は、抗議に応じない姿勢を貫いている。そのため、昨年の神事の際には、団体メンバーが抗議のために神事の現場に集まり、諏訪大社の氏子らともみあいになる場面もあったという。

諏訪大社カエル串刺し神事に抗議 動物愛護団体「許すことのできない残虐行為」 : J-CASTニュース

 案の定、この件に関しては賛否両論が巻き起こっているようだ。
 私の立場は、例によって「好きにすれば」というものである。毎年1匹カエルを捕って奉納するくらいなら個体群に与える影響などないに等しいだろう。個体群が消滅寸前で、1匹でも大打撃、というのなら話は別だが、そうでないなら、煮るのも焼くのも好きにすればいいと思う。それは、持続的な利用の範囲内だ。残酷だというのは人間の感情に過ぎない。そんなもので人に何かを強要するのは筋違いである。私はカエルを生きたまま串刺しになんて絶対にしたくはないが、それをしたい、という人を止める権利は私にはない。それは、トレンディエンジェルがつまらないからテレビに出さないようにしてくれないか? とテレビ局に要求するのと同じくらい馬鹿げたことである。世界は、私を中心には回っていない。
 だから、暴力的に神事に介入しようとする団体については、「何を勘違いしているのだろうか」と呆れてしまうわけだが、その一方で、神事を擁護する人たちの主張にも、「ちょっと待てよ」と感じる部分がある。
 擁護派の主流をなす「伝統文化なんだから尊重しろ」という意見は、「すべての命は等しく尊重されなければいけない」というのと同じタイプの思考停止ではないか、と思うからだ。
 「伝統文化」というのは、「今までずっとそうしてきた」ということを、ちょっとカッコつけて言っただけの言葉に過ぎない。「伝統文化だからこれからも続けていくべきだ」という主張の意味は、「今までずっとそうしてきたことだから、これからもずっとそうしていくべきだ」ということである。そこには、「なぜ、ずっと続けてきたのか。なぜ、これからも続けていかなければいけないのか」という問いに対する答えは、ひとっかけらも含まれていない。その主張は、「何も言っていない」に等しい。
 それで何かを言った気分になってるんだったらちょっとまずいだろ、と思うわけだ。
 伝統文化であることを理由に擁護するのであれば、なぜ、その伝統文化は継続されなければいけないのかを、根拠を挙げて説明しなくてはいけない。「なんらかの理由で神事が中止された年には、例年に比べて有意に悪いことが起こっている」くらいなことを証明して、「だから、とりやめてはならんのだ」とでも言わなければ、意味のある反論にはならないだろう。「今までずっとやってきたことだから、これからも続けていきたい」というのも、「伝統文化は尊重され、保護されるべきだ」というのも、「カエルを殺すなんて可哀想」というのと同じく、人間の感情に過ぎない。繰り返すが、そんなものは、何かを主張するための根拠にはならないのである。感情に基いて主張するのは構わないけれど、きちんとした理論的裏付けをしなければいけない、と私は思う。
 「命」を含む他のすべてのものと同じように、伝統文化にも、「絶対的な価値」は存在しない。その存続は、続けていくことのメリットとデメリットを比較した上で決められるべきことである。蛙狩神事でカエルを殺し続けることが許されるかどうかは、カエルの個体群に影響を与えるというデメリットを、神事を行うことによるメリットが上回るかどうかによって決まる。議論は、原理主義的にではなく観念的にでもなく、事実に基いて定量的に行われなければならない。
 「命だから」一切殺してはいけない、という人と、「伝統文化だから」変えてはいけないという人は反対のことを言っているようでいて、実は同じ穴のムジナなのではないかと、私は思っている。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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