トカゲモドキの性染色体について

      2016/02/22

 こんな論文がありました。
Differentiation of sex chromosomes and karyotypic evolution in the eye-lid geckos (Squamata: Gekkota: Eublepharidae), a group with different modes ... - PubMed - NCBI

 トカゲモドキ科に含まれる12種のトカゲモドキの染色体を調べた論文です。
 染色体を調べることには、2つの意義があります。ひとつは、染色体数やその形態の類似性から、系統関係を推測できること、もうひとつは、性染色体の有無によって、その種が温度依存性決定を行うのか、遺伝子性決定を行うのかを推測できることです。トカゲモドキ科は、ひとつの科の中に温度依存性決定を行う種と、遺伝子性決定を行う種が混在する変わったグループですから、その染色体を調べることで、性染色体の進化について、有効な情報を得られる可能性もあります。 
 そこで著者らは、オマキトカゲモドキ(Aeluroscalabotes felinus)、オバケトカゲモドキ(Eublepharis angramainyu)、ヒョウモントカゲモドキ(E. macularius)、ヒガシアフリカトカゲモドキ(Holodactylus africanus)、ニシアフリカトカゲモドキ(Hemitheconyx caudicinctus)、スベノドトカゲモドキ(Goniurosaurus lichtenfelderi)、ゴマバラトカゲモドキ(G. luii)、アシナガトカゲモドキ(G. araneus)、オビトカゲモドキ(G. splendens)、チワワトカゲモドキ(Coleonyx brevis)、バンドトカゲモドキ(C. variegatus)、サヤツメトカゲモドキ(C. elegans)の12種について、合計85個体を用い、染色体の数と、性染色体の有無を調べました。
 その結果、この12種のうちで、明らかな性染色体を持っているのは、サヤツメトカゲモドキだけである、ということがわかりました。他の11種からは、哺乳類のXY染色体のような、異型の染色体のペアは見つからなかったのです。従って、この12種のうち、サヤツメトカゲモドキだけは、疑いようなく遺伝子性決定を行なっていることが示唆されました。なお、サヤツメトカゲモドキの性染色体は、X1X2Y型をとります。メスはX1とX2という2種類のX染色体をそれぞれ2本ずつ持ち、オスはX1、X2染色体を1本ずつと、X染色体の2倍の大きさのY染色体を1本持つのです。Y染色体は、もとは2つの染色体だったものが1つに合体したもので、減数分裂の際には、X1染色体とX2染色体両方と接合します。

サヤツメトカゲモドキの性染色体

サヤツメトカゲモドキの性染色体

 チワワトカゲモドキおよびバンドトカゲモドキは、サヤツメトカゲモドキと同じように、遺伝子性決定を行うとされている種です。実験の結果、卵を育てる温度条件を変えても、孵化する仔の性比は常に1:1であることがわかっているからです。しかし、この2種からは、明らかに性染色体に該当するようなものは見つかりませんでした。もちろん、インドニシキヘビのように、性染色体の双方の見分けがつきにくいような種も存在しますから、これらのトカゲモドキに性染色体が存在しない、と言い切ることはできません。著者らは、より詳細な分析が必要だろう、としています。
 スベノドトカゲモドキおよびゴマバラトカゲモドキは、仔の性比が1:1になるため遺伝子性決定を行なっているだろうと推測されていますが、前述のアメリカトカゲモドキ3種のように、様々な温度条件での検証が行われていないため、はっきりしたことはわかりません。温度依存性決定を行うことがはっきりしているヒョウモントカゲモドキとニシアフリカトカゲモドキを除いた残りの種も明らかな性染色体が見つからなかったことから、これらの種については性決定様式の特定はできないと著者らは結論づけています。
 同じように遺伝子性決定を行なっていると思われるアメリカトカゲモドキ3種の中で、あるものは明瞭な性染色体を持ち、別のものにはそれが見られないという結果は、トカゲモドキの仲間が、性染色体の進化の過程を同時的に表現している可能性を示唆しています。哺乳類のX染色体とY染色体は、今では大きさも形もまったく異なりますが、もとは同じような形をした相同染色体でした。それが、進化の過程で、互いに違う形に変化してきたのです。そのような性染色体の「過去」と「現在」を、トカゲモドキは、同時に示しているのかもしれません。とすれば、先ほども書いたように、トカゲモドキについて調べることで、性染色体の進化について、有益な情報が得られるかもしれません。
 なかなか役に立つじゃないかトカゲモドキ、とちょっと鼻の高くなるような論文です。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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