トカゲモドキの不思議な立ち位置。

   

 トカゲモドキは、ヤモリの仲間である。分類学的に言えば、「ヤモリ下目ヤモリ上科」に含まれる。
 けれど、一般的なヤモリとは、形態的特徴に大きな違いがある。
 目立つのはなにより、瞼を持っていることだ。
 家の壁にヤモリが出現したらよく見て欲しいのだけれど、やつらは瞼を持っていない。代わりに、透明な鱗が眼球を覆っている。だから瞬きもしない。眠るときも、わずかに眼球が眼窩の中に落ち込みはするものの、基本的に目を開けたままである。

オウカンミカドヤモリの目

オウカンミカドヤモリの目。瞼がない。

 一方、トカゲモドキの仲間は、立派な瞼を持っている。トカゲモドキの仲間を英語で「eyelid gecko」(まぶたヤモリ)と呼ぶのはそのためだ。もちろん、だから目を閉じることができる。

トカゲモドキの目

トカゲモドキの目。瞼がある。

 もうひとつの大事な違いは、趾下薄板を持っていないことである。
 一般的なヤモリが垂直な壁を登れるのは、指の先に趾下薄板という特殊な構造を持っているからだ。指の先に、電子顕微鏡でなければわからないくらいの細かな突起がびっしり生えていて、それらの突起を、壁の表面にある、これまた微細な凸凹に触れさせると、きっとあなたも理科の時間に習ったはずの、「ファンデルワールス力」と呼ばれる原子と原子が引き付け合う力が発生する。この力によって、ヤモリは壁にくっついているのである。

オウカンミカドヤモリの趾下薄板

オウカンミカドヤモリの趾下薄板。足の裏の襞の表面に微細な突起が無数に生えている。

 しかし、トカゲモドキの仲間はこの趾下薄板を持っていない。

トカゲモドキの足

トカゲモドキの足。趾下薄板がなく、ほっそりした指をしている。

 だからやつらは壁に張り付くことができない。
 瞼を持ち、趾下薄板を持たないという特徴は、ヤモリというよりは、それ以外のトカゲの仲間に近い。だから、この仲間は、「トカゲみたいなヤモリ」という意味で「トカゲモドキ」と呼ばれているのだ。
 かつて、ヤモリの仲間が、「ヤモリ科」と「トカゲモドキ科」だけに分けられていた頃は、これらの特徴が、「トカゲからヤモリへの進化の途中の姿」とみなされていた。いわば「始祖鳥」とか、「シーラカンス」みたいな存在だと考えられてきたわけだ。
 けれども、最近の研究結果からは、単純にそうも言えない可能性が示唆されている。
 A phylogeny and revised classification of Squamata, including 4161 species of lizards and snakesという論文によれば、現在、ヤモリの仲間は、次の図のように分類されるそうだ。

ヤモリ下目の系統樹

ヤモリ下目の系統樹

 この図は、ひとつの祖先種から、こんな風に枝分かれして、それぞれのグループが生まれてきましたよ、ということを示した図だ。
 この図からは、ヤモリの仲間は、まず、「ヤモリ上科」と「ヒレアシトカゲ上科」の2つのグループに分かれ、その後で、それぞれがさらに細かく枝分かれしたことがわかる。
 注目すべきは、ヤモリ上科、ヒレアシトカゲ上科双方に、瞼がなく、趾下薄板を持つ、「いわゆるヤモリ」の姿をしたグループが含まれていることだ。ヤモリ上科のヤモリ科は、家に出る普通のヤモリ(ニホンヤモリ)を含むグループ、ヒレアシトカゲ科に含まれるイシヤモリ科は、「いわゆるヤモリ」の例として挙げたオウカンミカドヤモリを含むグループである。
 ヤモリ上科、ヒレアシトカゲ上科ともに、「瞼がなく、趾下薄板を持つ」という特徴のグループが含まれているということは、これらの特徴は、ヤモリの仲間の共通祖先がすでに持っていた特徴である可能性が高い、ということである。これらの大きな特徴が、それぞれのグループで2度登場したとは考えにくいからだ。
 とすれば、トカゲモドキの仲間は、1度獲得したこれらの特徴を、なんらかの理由でふたたび捨てたグループということになる。ヤモリの祖先型だからトカゲとヤモリの間の形態をしている「生きた化石」なのではなく、ヤモリになったものがちょっとトカゲに戻っただけの変わり者、なのかもしれないのである。
 ただし、単純にそう片付けることもできない。
 1度獲得した趾下薄板を「捨てる」というのは、比較的簡単にできることである。けれども、1度捨てた瞼を、「取り戻す」というのは、ちょっと難しい。日の当たる生活をするようになっても霊長類が4色型色覚を取り戻せなかったように、1度手放したものはもう手に入らない、というのが進化の基本法則だからだ。とすれば、やはりトカゲモドキのようなものが祖先型で、瞼の放棄と趾下薄板の獲得が2度起こったという可能性も否定できなくなる。けれども、ヤモリ下目の中で瞼を持っているのがトカゲモドキの仲間だけ、だということを考えると、二次的に瞼を獲得したと考える方が自然かも、と思えたりもする。
 どういう変化が起こってこうなったのだろう、と考えると、どうにもぐるぐるしてしまうのである。
 トカゲモドキの仲間は、なんとも悩ましい存在と言える。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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