物言わぬ動物の声を聴く。

      2016/03/28

 動物園という施設に対して、みなさんはどんな印象をお持ちでしょうか。
 私にとっては心躍る楽しい場所である動物園ですが、否定的な印象をお持ちの方も、少なくないかもしれませんね。
 「動物を狭い場所に閉じ込めておくなんて虐待だ」、「動物を金儲けの道具に使っていてけしからん」、そういったご意見をを、私も何度か耳にしたことがあります。
 それらの意見が、まったく間違っているとは思いません。ストレスからくる常同行動をうまく解消できないケースもありますし、特に私立の動物園は、利益を上げなければ立ち行かない営利企業にほかならないからです。動物園をどうしても好意的に見ることができない方がいらっしゃるとしても、それは当然のことでしょう。
 けれども、そんな人たちにも、知っておいてほしいことがあります。たとえ営利組織であったとしても、現場で動物と向き合っている職員の方々は、決して動物を軽んじているわけではない、ということです。
 動物園の飼育員の方々は、常に動物の健康状態に気を配り、その心に配慮し、動物にとって有益であると思われることはできるかぎり取り入れようとしています。体調を崩した動物を思って眠れぬ夜を過ごし、回復を遂げれば歓喜の涙を流します。その動物の魅力を来園者に伝えようと、いつも一生懸命です。彼らは、目の前のその動物のことを、まるで自分の分身のように大事に思う存在なのです。
 片野ゆかさんの書かれた『動物翻訳家』(集英社)には、飼育員の方々が、どれほど深い愛情を持って担当動物に接しているか、ということを物語るエピソードが、ふんだんに盛り込まれています。フンボルトペンギンの要求に見合う飼育施設を造るため、生息地のチリまで視察に出かけた埼玉県こども動物自然公園の小山良雄さん。幼少期から仲間と引き離されて育ったせいで子育ての仕方を知らず、自分で産んだ赤ん坊を拒否してしまうチンパンジーに寄り添い続け、彼女が自分の意志で赤ん坊を受け入れられるように導いた日立市かみね動物園の山内直朗さん。アフリカハゲコウとの間に信頼関係を築き、籠も鎖もない中で、彼らに大空を羽ばたく自由を与えた秋吉台サファリランドの佐藤梓さん。消化器が弱く下痢をしがちなキリンのために、2年以上の歳月をかけて、彼ら本来の食性を満たす新鮮な葉付きの枝の安定供給にこぎつけた京都市動物園の高木直子さん。どの方のエピソードを読んでも、その愛情の深さに、感動せずにはいられません。この本を読めば、彼らがいかに動物のことを考えているのかということを、思い知ることになるでしょう。
 もし、あなたが動物園という施設に対して抵抗感を抱いている人であるとしても、いや、そうであるならなおさら、この本を読んでみて欲しいと私は思います。立場は違っても、動物を思う気持ちに違いはないのだ、ということが、きっとわかるはずですから。

1986年生まれ。幼少期より生き物と戯れて育つ。2011年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年より小動物臨床に従事。在学中から、WordPressを利用してブログを書き始める。ニシアフリカトカゲモドキと出会った2014年に内容を一新、爬虫類ブログ「とかげもどきのしっぽ。」を立ち上げ、現在に至る。ニシアフリカトカゲモドキをはじめ、多くの爬虫類と暮らしている。

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